イタリア・ベネチア 1
目が覚めたとき、電車は海の上を走っていた。
イタリアの国境をまたぎ入り、夜の内に入国していたみたい。 日本人にも人気の旅行先、ベネチアへ向けて電車は突き進む。 ヨーロッパ旅行でもっとも楽しみにしていた目的地だ。 ポケモンの映画で舞台になっていたし、あの映画のせいでいつか来たいと思ってた。 個人的には一番の名作だと思う。また見たいな。
到着した駅舎を出ると、そこにはもう太い運河が走っていた。 想像通りだ。石造りの建物と濁った運河。これだこれだ。寒いし曇っているけどやっぱりここなのだ。
真冬のオフシーズンだったからか、観光客もそれほどいない。
テレビや雑誌で幾度となく見たあの景色。 寒々しい空の下、船たちがベネチアの運河を悠々と滑り行く。
ベネチアでは車は一切走っていない。 都市計画などとは無縁の迷路のような入り組んだ街並みと、 運河を跨ぐ階段まみれの道では車なんて走れないのだ。 結果として緊急車両でさえも船が使われる。適材適所だろうか。
余談だが自転車も使用することが禁止されている。どう考えても危険なのであえて乗ろうとは思わないが、この街で生まれ育ったイタリア人は自転車に乗れないまま大人になってしまうのでは、と心配になる。
駅で2€の地図を買った。島内の細かな道も全て教えてくれるはずだったのだけど、 結局のところ自分たちがどこに居るのかさっぱりわからず役に立たなかった。 迷子になってうろついている最中に、別の迷子の観光客に会った。 お互い苦笑するしかない。Good luckとしか言いようがない。
人とすれ違うのも困難な細い道がある。れっきとした公道だし迷子になった観光客も通る。 若いうちはいいけど、年を取ってからこの街で暮らすのはなかなか難儀じゃないのかな。
陽気に歌をうたってゴンドラを漕ぐおじさんもいない。 小さな橋を船でくぐり抜けるアトラクションも今日はできないのだ。
観光客相手の売店も暇そうだ。店員さんはタバコをくゆらせている。 この島の目抜き通りだから、きっと普段は人がたくさん通るんだろうけど。
せっかくだからイタリア料理のレストランに行ってみた。 ワインとグラタンで冷たくなった体が少し温かくなる。 昼時だというのに自分たちいがいの客は居なかった。 なかなか美味しくてサービスも素敵なお店だったのだけど。
風がでて波がたつ。海面が白んできた。 不穏な感じだ。雨が降ったりしたら困る。 傘なんてないし、たいした着替えもないんだから冬の雨に当たったら風邪引きそうだ。