未踏の二次審査に出席した
ついに二次審査当日。人生でもっとも緊張するプレゼンだった。 大学時代の最後にやった卒業研究発表会を思い返してみると、あのときは別に対して緊張していなかったように思う。 今考えると、自分の大学の学生や院生を脅威に感じていなかったからだった。自分はおまえらより情報科学に詳しいんだぞ、という奇妙な自信があったから大丈夫だったんだ。 だけど今回はトップクラスの研究者・技術者であるとかビジネスの大家だったりするわけで、緊張しないわけがない。ここ数日、毎晩近所の誰もいない真っ暗な荒川土手で一人プレゼンの練習をしていた。私は応募時に24歳で、今年が未踏に応募できる最後の年だった。ここで失敗すればこれから先、生涯にわたり深い後悔に身を沈めることになるんだと半ば強迫観念に追われていたのだ。
朝から胃が痛い。病気もない普段の健康な体を考えると、間違いなくストレス性の胃炎だろう。自転車で北千住のマツキヨで胃薬を買う。2500円もした。何錠か飲んで土手沿いをうろうろしていると、胃の痛みは軽くなった気がする。もうプラシーボ効果でもなんでもいい。早く終わってほしかった。
ほぼ定刻通りに到着した会場となるホテルの会議室で一人で待つ。渡される書類にペンを走らせ、心臓の音が聞こえてきそうなほどの早鐘を打つ。この日の午前中にプレゼンする人の中では最後の発表になるようだ。
発表会場の前、扉の外にあるイスに座って出番を待つ。発表内容が外部に漏れたりしないようにするため万全の体制が取られているようで、他の人の発表や質疑応答を見聞きすることはできない。IPAのスタッフさんと世間話をして時間を待つ。
ついに自分の番がきた。きてしまった。一つ前の発表を行った人と入れ違いになるように部屋に入る。発表会場はふつうの会議室で、会場前方はスライドを映せるように薄暗くなっている。もちこんだPCの外部出力端子にプロジェクタから伸びる外部入力端子を差し込む。設定がおかしくなっているようで、手元とスクリーンの内容はミラーリング表示となってしまった。ここで直し方がわかれば良かったのだけど、私にはわからないし試行錯誤する時間もない。PMたちの視線は私にそそがれている中でもたつくことは出来なかった。 ずっと用意していた「はじめます」という最初のセリフをマイクに向けてつぶやき、発表を始めた。ここ数日ずっと練習した内容なので、スライドなんか見なくても言葉はスラスラでてくる。緊張で多少早口になってしまい、そのため1.5分ほど早くしゃべり終えてしまったが、それはそれで質疑の時間が伸びるだけなのでどうでもよかった。
質疑を終え、自分に用意された時間を使い切って発表が終わった。聴衆に一礼して誰とも目を合わせず持ち込んだPCをたたんで会議室を出た。やってやったぞ。ついに乗り越えたぞ。30分前までの吐きそうなほどの緊張の糸が切れた。発表に対するアドバイスをくれた未踏OBの友人に連絡をとり、お茶の水にあるカレー屋さんで昼食をとった。
二次審査の評価を知ることはもちろんできないが、自分としては会心のできだった。質疑に対しておおむね正確な応答ができていたという手応えを感じた。あとは運を天に任せるだけだ。