立石の宇ち多゛にいってきた
存在こそ知っていたものの立石に行く用事もなく(実家は葛飾区なのだが立石まではかなり距離がある)、「いつかいきたい」というくらいの気持ちのままバケットリストの奥で塩漬けになっていたイベントが宇ち多゛(うちだ)に行ってみることだった。店名の入力が難しい。このお店については有名店であるためいたるところで詳しく解説されている。
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とまぁこのようにやたら難易度が高そうな人気店で、安く美味しいという一番の魅力をかき消すような緊張感、プロトコルの習得が必要なオーダーの作法、30分から60分で退店を促されるという我が国には珍しいストロングスタイルの接客という初心者にはなんとも厳しいお店だ。ちょうどラーメン二郎と同じ文化を見て取れる。この不思議なお店にいこうと最近誘っていただいたので、ちょうど通常の飲み会開催が社会的に流行ってきたこのタイミングで行ってみることにした。
京成線の立石駅から徒歩1分ほど、場所さえ知っていればあっというまに到着する。店は東西を商店街の通路で挟まれており、それぞれが入口と出口として役割は分離されている。かなり年期の入った店舗だ。立石駅のアーケードもかなり味わいがある。17時ころに到着したが、すでに5人ほど店の外に並んでいた。
有名店であるため千社札や会社のロゴのステッカーがペタペタと店先に貼られている。駆け出しエンジニアのMacbookみたいになっているが、宅配サービスや決済サービスのステッカーなどはない。来店客が勝手に貼っていったのだろうか。来訪の証か、常連の証かはわからない。
頭をのれんの内側にいれて待てと店員から指示が飛ぶ。入店前からドキドキするが、もちろん素直に従う。別に怒鳴りつけられるわけではない。おもったよりマイルドなのかもしれない。
そう思ったのも束の間のことで、空いたカウンター席に案内されて最初の洗礼を受けた。大将が一味唐辛子の容器をカウンターに置きながら、「ここが真ん中だから」と言う。意味がわからない。カウンターにおける「真ん中」という情報の解釈のしかたもわからない。「ここが真ん中だから(、このラインを超えないように席をつめろ)」という意味だとおもって席をずらすとそうじゃないという。戸惑いながら席の位置をもどすと、どうやらこの一味の缶が私が座る場所の真ん中を指し示しているとのことである。
……?
予習しておいたセトリはすべて頭から飛んでしまった。
結局一緒に行ってくれた人がありがたいことに物怖じしない性格だったためオーダーの大半をお願いしてしまった。わたしは席について最初の「もつ煮ください」しか結局言えていない。なんと頼りないことだろう。情けなくなる。
しかし例の独特な単語の連接プロトコルに則ってオーダーしたモツ焼きは、それはそれはおいしかった。一皿二串で200円。安いし今焼いたばかり、食材も(ネット記事によれば)日々入荷する新鮮なもの。すばらしいクオリティで大変すばらしい(語彙力)。信頼のおける指標ではないが、さすが「食べログ3.77」である。
名物の「梅割り」と「ぶどう割り」だ。25度の焼酎をショットグラスにこぼれるまでドボドボ注いで上から梅やぶどうのシロップをちょっと振りかけるというもので、たしかにここでしか見たことのないものだ。言うまでもなくかなりアルコールは強い。そのため一人3杯までというルールがあるらしい。
30分ほどでお会計にした。一緒に行った人がそれほどお酒を飲まない人だったとはいえ二人あわせてたったの1600円である。あまりにも安い。オスロのレストランでビールを飲んだら一杯1600円するんだから実質無料とも言える。25度のお酒をこぼれるほど注いでくれるお店でこれは本当に安い。
とはいえこの緊張感の中のむお酒は私にとって気持ちの良いものかというとどうだろう。どうなんだろう。美味しいし、安いし、なんなら一件目にきれいにきもちよくお酒を飲めるならむしろ紳士的ですらあるのではないか。よくわからない。これはダイアログインザダークみたいなエンタメとして楽しむくらいがいいような気もするし、しかし妙に心惹かれる。また来てしまいそうだ。そんなことを考えながらお店をあとにする。
そしてそのまま、友人に連れられたままフレンドリーで温かく美味しいお寿司屋さんに入店した。
ウチダで抑制されていた会話を解禁し、カウンターの隣に座る友人、知らないおじさん、付け場の大将らと話しながら実感する。うん、わたしにはこちらのほうが合っている。緊張しながら飲むお酒より、気の許せる仲間(それがたとえ初対面であったとしても)との杯のほうが向いているような気がした。