ビリヤンディにいってきた

Viljandi、という地名を知っている人はそれほど多くないと思う。エストニア第六の都市だ。タリンを知っている人は地理や旅行が好きな人ならそれなりにいるかもしれないが、第二の都市タルトゥや第三の都市ナルヴァを知っている日本人はほぼいないだろう。六番目ともなればいうまでもない。アメリカでさえ六番目に人口の多い都市を言い当てられるひとはいないので(ペンシルバニア州フィラデルフィア市らしい)、それがエストニアとなるとまぁいないといって良いだろう。そんなビリヤンディに行ってきた。

ヴァンター国際空港の鉄道連絡口。ずいぶんきれいになっててびっくりした

ヘルシンキ中央駅

マイアミからのフライトで到着したフィンランドの首都ヘルシンキ。前回来たときから見違えるように大きく変わっていて素晴らしく便利になっている。あらゆる場所がきれいになっており、10年前にはなかった空港からヘルシンキ中央駅までの鉄道も通っているし、駅からフェリーターミナルまでのトラムはモバイル端末でチケットを買えるようになっていた。最高だ。ちょっとまえは旅行者がトラムに一回乗るのに現金が必要だったので大進歩である。

BOARDINGの書体がかわいい

船内にはバーガーキングがある。ビールも買ってしまった

ヘルシンキ港からフェリーに乗る。飛行機と違って荷物があっても料金がかわらないし荷物検査もないので快適だ。片道二時間ほどの船旅になる。船内は広く、レストランやスーパーまである。ヘルシンキ-タリン間は短い航路だが、海に数時間停泊してゆっくり進む夜行便もある。夜遅くに到着してしまいホテルを取るのがもったいないなというときに利用するのにぴったりで、フェリー代に20EURほど足すだけでベッドとシャワーのついた個室に宿泊できる。

朝のタリンを散歩する。2014年ころ、大学院生としてこの街に暮らしていた思い出がよみがえる。懐かしい。時節柄か規模は若干縮小していたものの、ラエコヤプラッツのクリスマスマーケットも健在だった。あのころ2EURで飲めていたホットワインは4EURに値上がりしていた。

タリンの旧市街からすぐのところにあるタリン駅に向かい、朝食として構内のキオスクでホットドッグを買う。ビリヤンディ駅までの切符はスマホで買った。駅に券売機はなく切符は車内で購入する仕組みだが、オンラインで購入しておくと10%ほど割引が効くので事前に買っておこう。片道2時間余りの電車旅だ。

到着したビリヤンディはタリンと同じくらい寒い。タリンと同じくらい寒いというのは南極よりはるかに寒いということだ。大都市のタリンに比べるとたしかにこじんまりとしていて徒歩でも十分歩いて回れそうである。とはいえこの寒さだと基本的に家に籠もりたくなるため、タリンだろうがビリヤンディだろうが生活はきっと変わらないだろう。

街路樹の赤い実。ジャムにするとおいしいらしい。ひとつちぎって口に入れてみたがシャーベット状態だった

こういうところのデザインがよいのがエストニア

カフェで昼ご飯。グリルしたカマンベールチーズをバゲットにつけて食べる。おいしい

ビリヤンディのいちばんの観光名所といえばビリヤンディ城。1200年代に築城されたバルト地域で最大規模の城だったが、ポーランド・スウェーデン戦争でほとんど破壊されてしまい現在は遺構が残るのみになっている。

バルト地域はその長い歴史の中で幾度となく近隣の大国に翻弄されてきた過去を持つ。この遺構もビリヤンディの街の栄光と衰退の歴史の象徴だ。

雪の上でそり遊びをしている子供がたくさんいた。エストニアは非常に平坦な国で、国内にちゃんとしたスキー場がひとつもない。ビリヤンディはそんな平坦な国としてはかなり珍しく坂がおおい。冬に訪れる際はころばないように気をつけよう。私は一回ころんだ。すり減ったスニーカーで歩くべき街ではない。

ビリヤンディは小さな街で、遺跡とビリヤンディ湖以外に目立った観光地はない。でもこの街にはイチゴがある。これはPaul Kondasのアート作品で、街のいたるところに大きなコンクリートのイチゴがころがっているのだ。とはいえこの街に住んでいる人もどうしてイチゴなのか、どうしてその場所にあるのかよくわからないと言っていた。この曖昧な愛され方がいとおしい。

ビリヤンディには空港がないためタリンに戻ってくる。毎度のことながら不便で不快で金の掛かる陰性証明を5000円ほど払って取得し、ロンドンまでのフライトにチェックインする。陰性証明として発行されたPDFをカウンターに立つスタッフに見せるのだが、毎回一瞥されて終わるただこの一瞬のために5000円払ってると思うとやりきれない。早く世界がもとに戻ってほしいと、もう何十回何百回と願ってきた気持ちがまた一段深くなった。またまだ深くなりそうだ。すでにコラ半島の穴より深い。

この空港もほんとうに久しぶりだ。街からのアクセスもよく、機能的で使いやすい空港なので気に入っている。いつのまにやら市街地とはトラムで結ばれていて、バスしかなかったあのころより進化していることを感じられた。たかだか一年と数ヶ月しかいなかったくせにタリンに対する私の愛情は大きく、この街の発展は自分のことのように嬉しい。私が住んでいたころには日本人はほとんどいなかったが、現在はかなりたくさん住んでいるようで留学生やリモートワーカー、日本食料理屋なんかの数も増えているらしい。便利な街だし日本人移住者はこれからも増えていくのだろう。

タリン空港のラウンジには誰もおらず完全に独り占め状態だった。食事はすべて個包装になっているが、北欧らしい食事がたっぷりとれるし朝からビールだのブランデーだの飲みまくることもできる。ディルが効いたニシンと黒パンのオープンサンドの味は学生時代を思い出して感動する。最高だ。本当に良い国だ。また何度だって来たい。