リヒテンシュタインにいってきた

スイスの東、ごく小さな面積をもった国が見える。

リヒテンシュタインという国名も普段あまり聞かないしそこに何があるのかもわからないが、ちょうど隣国スイスに滞在しているので行ってみることにした。リヒテンシュタインは世界で6番目に面積の小さな国だ。面積は小豆島くらいしかない。ヨーロッパには歴史が生んだ極端に小さな国がいくつもある。モナコ、バチカン、サンマリノ、アンドラ、ルクセンブルク、リヒテンシュタイン。私は全ての欧州ミニ国家に行ったことになる。

朝のチューリヒ駅

リヒテンシュタインへの主なアクセス手段はスイスの都市Sargans(ザルガンス)までスイス国鉄で、そこからはバスによる移動になる。バスの運行は鉄道会社と連携しており、乗車券はスイス国鉄の券売機から鉄道の切符とセットで購入できた。ザルガンスは交通の要所ではあるものの、都市としては規模はとても小さく人口も6000人ほどしかない。人口4万人のリヒテンシュタインよりも少ないため、ろくにホテルもないザルガンスを拠点に観光するのは好ましくない。スイスは鉄道が発達しているので、スイス最大の都市チューリヒを拠点にしても十分日帰りで観光できる。スイスからの日帰り観光であれば、まずはザルガンスへ向かおう。

到着したサルガンス駅

振り向けば山

駅をおりてすぐのところに黄緑色をした目立つきれいなバスがあるのでドライバーさんに「ファドーツ(首都の名前)?」と聞いて乗り込もう。まぁ聞かなくても車体先頭の行き先表示にデカデカと「Vadus」と書いてあるので間違えることはたぶんない。

バスはすいている。大都市間を結ぶ路線ではないしそれほど混雑する路線ではないようだ。出発してから30分ほど。ザルガンスのきれいな街を抜け、殺風景な田舎道を超えればいつの間にかリヒテンシュタインに入国していた。リヒテンシュタインもスイスもシェンゲン圏の国なので国境の入管は取り払われている。

街の観光案内所

しばらく進むとバスは首都ファドーツに到着する。バス停は街のメインの通りに位置しており、そこから徒歩で観光できる。ごく小規模な町なので観光案内所に訪れる必要性は薄いかもしれないが、ここではパスポートにスタンプを推してもらえる。スタンプだけだと3スイスフラン、一緒に買い物をするとおまけで押してもらえたりもする。パスポートに入管以外でスタンプを押してもらうことには様々な意見があるのだが、関係の無いスタンプというわけでもないしリヒテンシュタイン観光局も普通にアピールしている観光資源なのでもらっておいてもいいと思う。

リヒテンシュタインの国旗は慶應大学の大学旗に似ている

見上げるとファドーツ城

リヒテンシュタイン侯爵一家がいまも住んでいるので立ち入ることはできないお城。リヒテンシュタイン氏は世界中に資産を持っており、公国なのでそれらの利益や固定資産税の納税先は自分になるのだろうか。うまい仕組みである。

切手博物館の展示はなぜかドイツ語と中国語の解説

国立公文書館

リヒテンシュタインのナンバープレートはEUのデザインと異なる

リヒテンシュタインはほかのミニ国家に比べると観光名所が多く、市街地には博物館や美術館が集中している。個人的にはKunstmuseum Liechtenstein(リヒテンシュタイン現代美術館)を推したい。この美術館は欧州諸国の美術館と比べても大変すばらしいものだった。大抵の国の首都には現代美術館が設置されていて、私は現代美術を見るのが好きなのでできるだけ訪れるようにしているのだが、これまでみてきた美術館の中でもトップクラスに印象がいい。また行きたい場所だ。現代美術館は「なんだこれ…」という驚きを与えてくれるのがたまらない。キリスト系国家の美術館にいくと大体は山のように蒐集されたどこにでもあるようなキリストが磔になった油絵を見ることになるが、現代美術館だと大抵そこでしか見えない謎の作品を鑑賞できる。展示方法も凝っているし、見回りをしているスタッフがうろうろしていないのもすばらしい。広い美術館で客が全然いないとき、私をずっとつけ回すように警備されるのは良い気持ちがしない。この美術館は客もスタッフも少ないのにひろびろしていて本当によかった。

ミニ国家はどこもそうだが、リヒテンシュタインの首都ファドーツもその例に漏れず日帰りで十分観光できる程度の規模しかない。中心地を端から端まであるいても10分かそこらなので、やはりここはスイスやオーストリアからの日帰り旅行でくるぐらいがちょうどいいのではないかと思う。

私は地酒の類いに目がなく、その地域以外に流通していなさそうな珍しいお酒を見るとつい買ってしまう。大抵はそこまで驚くような意外性のあるおいしさに出会うことはないのだが、それでも情報を摂取できるので十分楽しめる。このジンは観光案内所で売られていたもので、リヒテンシュタインの原料をもって同地で少数作っているオススメアイテムだと案内所のお姉さんに説明され、ほほうなるほどと買ってしまった。一人で飲むには大きいし飛行機に持って入れないから小さい瓶はない?と念のため聞いてみたが、これしかないのだという。結局翌々日には空にしてしまっていたのでこのサイズで問題なかった。このジンなかなかおいしい。日本では手に入りづらそうだしかなりのレアアイテムな気がする。お酒が好きなら買って損はないのであなたがリヒテンシュタインに行かれた際にはお求めいただきたく思う。

良い旅だった。