台湾の高雄にいってきた
日本人にとって最も人気のある海外旅行先のひとつは台湾だが、渡航者の多くは首都台北にいく。私もこれまで何度も台湾には行っているが、その渡航先の全ては台北で、そこから移動するにしてもあくまで台北を拠点に鉄道やバスで移動するだけだった。しかし成田からLCCのピーチアビエーションが高雄行きのフライトを飛ばしていることを知る。値段も片道7千円で、これなら週末と有給を組み合わせた手軽な旅行先として完全にアリだ。自分の名前に似た地というのも心惹かれる。村上春樹はギリシャにあるハルキ島というかなり辺鄙な場所へ、自分と同じ名前だからという理由で旅行したというエッセイを書いている。それに比べれば高雄は飛行機一本で行けるのだからずいぶん楽な巡礼だ。高尾山に比べれば高雄は大変だが、LCC一本でいけるんだからギリシャの離島に比べれば気楽なものである。名付けてくれた親に感謝しよう。
高雄への往路便は夕方の出発だが、機材到着の遅れから出発は遅延して一時間くらい遅れたボーディングになった。高雄は思いのほか遠く片道4時間ほどかかる。高雄国際空港への到着は深夜だった。
地下鉄で予約したホテルに向かい、チェックアウトしていつものように少ないながらも荷物を置く。レストランはすでにどこもしまっていたが、高雄も台湾の大都市なのでいつ到着しようが街をあるけばファミマがいくらでもある。台湾のコンビニ特有のホットスナックである黒い玉子「茶葉蛋」、それに具のよくわからないおにぎりや台湾ビールを一揃えかってホテルで遅い夕食を食べた。
高雄の有名な朝食の店
朝になり、ホテルから出て高雄の街を歩いていると一件の店の前に人だかりができていた。スマホを取り出し調べてみると、この興隆居という店の肉まんと鹹豆漿(豆乳スープ)が絶品らしいことを知る。客の回転は良さそうなのですぐ入店できるかと思い行列に並んでみた。
注文の仕方もわからないし会話もできないが、「これください」「はい」「ください」みたいな感じでそれっぽい組み合わせの朝ご飯が目の前に現れた。たぶんこれでいいはずだ。
混んでる店内を見渡し、隅にみつけた空いてる席にすわって肉まんをかじってみる。すごいうまい。人気があるわけだ。思ったより小さいので三つくらい注文してもよかった。鹹豆漿も初めて飲んでみたがこれもおいしかった。具材として揚げたパンの輪切りが入っているのが斬新だ。
どうでもいいが鹹豆漿という言葉の漿という字、脳漿や血漿以外の語で使われているところを日本語では見たことがない気がする。そのせいで若干気味が悪い。なまじっか漢字文化圏同士であるため、当然ながら一方で正常な表記であっても他方では違和感が生まれてしまうことがある。大腸包小腸もかなり不気味な文字列に感じられやしないだろうか。もちろんとても美味しいのだが。
台湾最南端の地へいこう
高雄は台湾の都市としては最南部に位置しており、一年を通してかなり気温が高い。日本は冬だが高雄ではシャツ1枚で十分うろうろ歩き回れる。ここより南には都市とよべる街はないが、いくつかの小規模な町があり、その向こうには台湾最南端の地とされる鵝鑾鼻岬(ガランビみさき)という場所がある。
台湾最南端の地はかつて日本最南端の地でもあった。最南端だの最北端だのといった場所を回るのが好きな私はその場所へ行ってみることにした。
左営駅(台湾新幹線の高雄駅)から南方面行きのバスが頻繁に出ている。ガランビ岬へ向かうまでは途中で乗り換えが必要で、その乗り換えるバスはそれほど頻発していないので気をつけたい。しかも乗り換えするバス停で待っていてもバスは止まってくれない。やってくるバスが視認できたら運転手が気づけるように手をあげたりして止まってもらう。ウェイターを呼ぶようにかるく手をあげてみたらバスは通り過ぎていってしまった。ある程度おおげさな動きが必要らしい。
うまくバスにのりこむことができればあとは座っているだけでガランビ岬の近くまでやってくることができる。バス路線の終点の駐車場ではお土産物屋やレストランがちらほらと営業している。かなり蒸し暑い。
高雄から出発して4時間ほど掛かってしまったがやっとのことで到着する。自分で運転したり、バスをちゃんと捕まえることができればたぶん3時間くらいで来られると思う。案外ガランビ岬は台湾人に人気のある観光地のようで、バスは誰も乗ってなかったのに最南端の碑のまわりにはたくさんいた。碑の周囲に商売っ気はなく、みな記念写真を撮ったり遠く広がる海を眺めたりするだけだった。稚内に山ほどある「日本最北のXX」みたいなものはここにはないようだ。それもあり稚内というよりは犬吠埼あたりに雰囲気は似ている。
虎と龍の塔
高雄といえば龍虎塔が真っ先に観光名所として挙げられるようだ。同地のランドマークとされているこの7重の塔が二つならんでおり、中華的なケバケバしさもあるデザインをしている。よくわからないのだが、高雄の伝統的な物語が由来になっているらしい。1976年につくられたものということで特に見た目には歴史を感じさせるようなものがないが、入場料は不要なので高雄に来たらぜひ入ってみよう。
龍の口から入って虎の口から出ると善人になるらしい。無事善人になれた。
瑞豊夜市
高雄最大の夜市が瑞豊夜市らしい。行ってみることにした。場内は整然としているとは言いがたく、かなり狭い路地にぎっしりと店と客が詰まっている。かなりパワフルな夜市だ。巨大な港町であるためか、海鮮系の屋台が多い。
最寄り駅から徒歩5分ほど。異様に活気のある空間があるのでうるさそうな方向へ歩けばたぶん迷わない。
楽しすぎて顔が自然とにやけてしまう。目についたよくわからない食べ物を次々に食べて回った。美味しいものは脂肪と糖でできているし、その美味しいものをさらに油で揚げているのだから夜市の食事はエディブル不健康でしかない。しかし20年後に体がこの手の食事についてきてくれるかもわからないし、いまのうちに食べられるだけ食べておこう。
感想
高雄めちゃくちゃ良かった。現代的なビルの立ち並ぶ台北に比べると、昔ながらの台湾らしさが残ると言われている台南地方は、むしろこっちのほうが楽しく感じるという人も多いのではないか思う。台南との間は特急で40分程度の距離なので、旅行の際は一緒に回るのがいいと思う。台湾南部の都市は食の都と呼ばれており、美味しいお店がそこらへんにゴロゴロあり値段も安い。治安もいいし気温も暖かい。駁二芸術特区のような芸術文化にも活気がある若々しい街だ。台湾自体何度来ても良い国だなと思う。また行きたい。
ところで冒頭で「自分の名前に似た地というのも心惹かれる」と書いたが、タカオの名を持つ地名は日本にはたくさんあるものの、海外にはほとんど存在しない。高雄で巡礼が終わってしまったのは少し残念だ。行きにくい国に行く理由付けに使えるところだったのだが。