オマーンにいってきた その1

アラビア半島の東の端、ペルシャ湾の入り口にオマーンという国がある。メッカを擁するサウジアラビアやアラブ世界における金融の中心地であるUAEのような中東の覇者とも言える有名な国々とは異なり、オマーンという国名にそもそもピンとくる人も少ないと思う。「オマーンにいってきたよ」と聞いて「ああ、中東のね!」となる人はどちらかといえば異常寄りであろう。日本や韓国からの直行便もないし、石油や天然ガスの貿易による駐在員以外の在留邦人も、おそらくほとんどいない国だ。

オマーンへの入国はビザが必要だがオンラインで申請でき、フォームを埋めてクレジットカードで料金を支払えばわりあいすぐに発行される。旅行者向けのツーリストビザは30日間までの滞在で20オマーンリヤル。日本円で6500円ほどだ。発行されたビザのPDFファイルを滞在しているホテルで印刷してもらい、わくわくしながら空港へ向かう。今回はアブダビを経由して向かうことにした。

空港から街へ

首都マスカットの空港に降り立つ。空港は見るからに新しく、広く、そして非常に清潔で産油国の余裕が感じられる。印刷したさっきのPDFとパスポートを入国審査で提出するだけで簡単に入国できた。すでにコロナ関連の入国規制は撤廃されており、ワクチン接種状況の確認や陰性証明は不要となっている。

オマーン国際空港、ではなくマスカット国際空港

空港から市街地まではタクシーかバスでの移動しかできない。常設のタクシーカウンターはなく、客引きしてくるタクシードライバーとの交渉で運賃が決まる。相場を知らなければ確実にぼられるため注意されたい。オマーンではOtaxiという配車アプリが存在するので、事前にSMS認証を済ませておくことができればこれを使うと安心だ。とはいえマスカット市内の移動であれば空港からの公営バス(Mwasalat)をオススメしたい。安くて速く、いつ乗ってもわりと空いているし綺麗なバスで安全に移動できるうえ、24時間を通して20分間隔と意外と高頻度で運行しているのもメリットだ。スーツケースが1つあるくらいならこちらのほうがどう考えても便利だと思う。料金はゾーン制で空港から街のバスターミナルまでなら片道150円ほどだが、高額紙幣だと断られることがあるので空港内のカフェか売店で一度崩しておくとよい。

英語とアラビア語の併記が助かる

運転手にお金を支払うとQRコードつきの切符がもらえる。とくにこれを読み込ませたりする機会は無かったが、降車まで無くさずに持っていよう。

空港から街の中心地までは30kmほど。まぁ健脚なら歩けない距離ではないが、時期を問わずマスカットはいつでも暑いので徒歩での移動は厳しいものがある。

終点まで45分くらい乗っていれば街の中心地であるRuwiバスターミナルに到着する。ここからオマーン各地やドバイ、アブダビなどへ向かう高速バスも発着している。とりあえずここを拠点にできると安心だ。近くにはスーパーやファストフード店もあるが、街の中心地としては結構こぢんまりとしているように見える。ドバイやアブダビと異なり、オマーンはその全土に高層ビルと言えるような建物がない。景観規制が厳格であるためらしい。

オマーン国立美術館

Ruwiバスターミナルからバスを乗り換えて旧市街地区に向かう。距離にして10kmに満たないが、日中はとんでもなく暑いので普通にバスに乗ろう。博物館前がバス停になっているため迷うこともない。2016年に開館したオマーンを代表する現代的な博物館が目的地だ。

オマーン人は1リヤル、外国人は5リヤル

地元の生徒たちが見学にきていた

展示物は非常に多彩で、1時間やそこらでは到底見終えることはできない。入場料は1800円ほどとちょっと高いがその価値は十分にある。ちなみに支払いにはクレジットカードも使えた。荷物を預けるロッカーはないが、受付に相談したらカウンターの裏にリュックサックを置かせてもらえた。

鍵って…いいよね……

アラブ諸国ではイスラム教の礼拝の日である金曜日があらゆる施設の公休日となることが多く観光に困ることもあるが、この博物館は金曜日でも午後から夜までは開館しているので、もし金曜日にすることがないなとなれば、その日に訪問すればそれなりに効率よく過ごせるのではないだろうか。

両替

鉱業にべったりと依存する国の経済状況は国際的な石油価格によって容易に乱高下してしまうというのがこの国の長年の苦悩の種で、さらに若者を中心とした失業率が高く経済成長率自体も非常に低い。コロナ禍の前であっても成長率0.5%以下の年がつづくといった具合だった。というわけで価値の不安定なオマーンの貨幣は他国では入手しづらく、そのレートも驚くほど悪い。そういう通貨への両替は現地で外貨を交換して行うほうがレートも良い。現地のATMを使うよりもトクするケースもしばしばある。

Ruwiバスターミナルから歩いて10分ほどのところにある両替所へやってきた。ほかのアラブ諸国の紙幣が余っていればここでまとめてオマーンリヤルに変換してしまってもよいと思う。私はとりあえず50ユーロ紙幣を渡し両替してもらった。すぐにオマーンリヤル紙幣を渡される。レートは非常によかった。

両替カウンターの向こうに座る妙齢の女性はパスポートに印字されたTOKYO JAPANの文字をみて「遠いところからよく来たね」と笑いかけてきた。これ持っていきな、と両替所のロゴ入りのペンとキーホルダーにイヤホンをもらった。ホテルに戻って試し書きしてみると案外ペンの品質は良く、イヤホンも思いのほかいい音質をしていた。日本から持ってきたイヤホンをなくし、仕方なくコソボの露店で買った白いイヤホン(5ユーロ)を使っていたがそちらは死ぬほど音質が悪かったので、新イヤホンに代替わりしていただく形で旧イヤホンを街のゴミ箱に捨てた。

新旧デザインの1リヤル紙幣

オマーンの紙幣は全体的に数字が小さい。クウェート・ディナール、バーレーン・ディナールに次いで世界で3番目に1単位の価値が大きい通貨であるためで、1オマーン・リアルで300円ほどにもなる。そのままだと死ぬほど使いにくいので補助単位としてバイザがあり、1000バイザで1リヤルだ。他国ではあまり見られることのない「1/2」という分数が使われているのが特徴のハーフリヤル紙幣で500バイザとなる。一般的な通貨補助単位は1/100であるため、オマーンの通貨は慣れないと結構わかりにくい。小銭も存在するが丸められることも多く、短期の滞在では見かけることは少ないはずだ。クレジットカードが使えるお店や公共施設が大半だが、前述の通り公共交通は現金支払いのみだし、マスカット市街を離れると現金しか使えない場面も増えてくる。

スルタン・カブース・グランド・モスク

首都マスカットにはオマーン最大のモスクがある。都心部からは25kmほど、空港からやや近いエリアに建っていて街の中心部からは少し離れているものの、幹線道路沿いに位置しているため路線バスでも簡単にアクセスできる。礼拝が実施される金曜日を除き毎日午前8時から11時までは誰でも入場できるため、オマーンにくる数少ない観光客はおそらく全員がここに立ち寄るのではないかと思う。

場所柄、服装の制限があるが入場自体は自由でチケットも必要ない。女性はヒジャブをあたまに、男性も素肌が見えないような姿での来場が求められている。肌や髪の毛を隠すための布は現地でのレンタルも可能だ。

内部は宮殿のようになっている。綺麗な噴水に、よく手入れのされた花壇や芝生。ゴミ1つ落ちていないこの美しい庭園を先に進めば白亜の城が現れる。

綺麗すぎワロタ

快晴の青空に乳白色の大理石の鮮烈さがよく映える。これまで見てきた数多のモスクの中でも、ここは飛び抜けて美しい。竣工から20年足らずのモスクであることもあり、現代的な建築技術をふんだんに用いているのであろう、尖塔(ミナレット)は90メートルの高さにもなる。

アラビア文字が装飾として用いられている

私はあまねく文字そのものが好きなので、こういうカリグラフィーによる装飾をうっとりと眺めてしまう。なんと精密な建物だろう。

磨き抜かれて日の光を湛えるつややかな床は、とくに柵や案内板があるわけでもないのにその上を歩くことすら躊躇させられる。もしここに重くて固いもの、たとえば一眼レフカメラなんかを落下させてしまったら大変なことになるのかな、と考えて一人背筋を寒くした。

モスクの中は豪華絢爛だ。世界で2番目に大きいシャンデリアが吊られた部屋には、世界で2番目に大きい絨毯が敷かれている。600人の女性が4年掛けて作り上げた重量21トンもの巨大な手縫いの絨毯は、多数のパーツに分けて生産され、このモスクに運び込まれてからさらにすべてを1つに縫い合わせて作られたらしい。ちなみに世界最大のシャンデリアも世界最大の絨毯もアブダビのモスクにあるが、ここまで大きいともはやどちらが上かなどどうでもよい気がする。

木製の扉には細かな彫刻が施されている

CGみたいな精緻さ

人類のもつ建築への美学と技術の粋、最高傑作の1つだと思う。訪れることができてよかったと心から思える場所だった。

つづく