サウジアラビアのトランジットビザをつかおう
サウジアラビアはイスラム教の巡礼など限られた目的を持つ人間以外の入国が困難で、これまで一般の日本人観光客が入国するのがやや難しい国だった。それが2019年ころに原油依存からの脱却を目指す同国政府によって方針が大きく転換され、現在はだれでもオンラインで簡単に観光ビザを取得して入国することができるようになっている。しかしこの観光ビザが非常に高価で、現在の価格は494.21サウジアラビア・リアル(SAR)、日本円でおよそ20000円。私はこれまでもいくつかの国でアライバルビザだったり在日大使館で観光ビザを申請したりを繰り返しているが、単なる短期滞在用の観光ビザがこんなにも高い国はこれまで見たことがない。
さらに今から一年前の2023年1月末よりサウジアラビアのビザ制度にトランジットビザという種別も加わった。こちらのビザ代は300SAR(約12000円)となっており、観光ビザの90日分の有効期限は不要だな、というのであればこれもまた観光の有効な選択肢になる。多少安いとはいえ、4日間では駆け足で2都市くらいだろうか、それくらいしか回れないかもしれない。とはいえ、例え一泊二日しかしないという人であってもビザ代に2万円掛かっていたこれまでの状況に比べればだいぶマシになったとも言える。
Our new 96-hour Stopover Visa is a landmark step for Saudi tourism, opening up Saudi to more international visitors than ever, and ensuring visitors can enjoy all that Saudi has to offer. #SaudiStopoverVisa pic.twitter.com/M8qK94BsRe
— الهيئة السعودية للسياحة (@SaudiTourism) January 30, 2023
ところでサウジアラビアの半官半民の航空会社であるSaudia Airline(サウディア航空)か、同国の民間航空会社Flynasのどちらかでサウジアラビアに入国し、ひとつなぎの航空券で出国する場合、同国のトランジットビザが無料(後述)で取得できるというキャンペーンが存在する。ビザの有効期限は通常のトランジットビザとかわらず96時間に設定されている。ビザが無料でもらえるのだと思えばスケジュールを調整してでも利用したい。加えてサウディア航空のフライトでこのキャンペーンを利用する場合には追加で各種特典がついてくる。一番魅力的なのが到着空港近くの都市にあるホテルが一泊ぶん無料でついてくること、さらに空港からホテルまでの送迎(片道)も提供されることだろう。トルコやエチオピア、カタールなどいくつかの国の航空会社ではトランジットツアーやXX時間以上の乗り継ぎでは無料のホテルが提供されます、みたいなところはある。しかしここまで自由度が高い特典はそうそうない。
とはいえこのトランジットビザ、利用がやたら難しい。制度開始から日が浅いこともあるのか利用に成功した日本人の体験談はネット上にひとつも見つからないし、そもそも特典の申し込み方法が難解極まるのだ。公式と思われるSaudia Holidaysというサイトで特典を紹介こそされているものの、そこからリンクされている各航空会社の公式サイトに飛び航空券を購入したところで、付帯特典を申し込む方法は一切案内されない。海外の旅行コミュニティサイトTripAdvisorでも「使い方がわからない!」「説明が見つからない!」「詐欺じゃないか!」「特典の適用を諦めて普通に旅行したよ…」などという書き込みで溢れている。わたしのXアカウントにも先んじてトライされた旅行者の方からメンションいただき教えてもらったが、やはり特典は使えなかったとのことだった。
サウジアラビアと日本の間に直行便がないという事情から、日本以外のある国にまず出かけ、そこからサウジアラビアに入国し、さらにまた別の国へ出国するという3国をまたいだ移動でしか利用できない制度ということで、このトランジットビザ制度を利用する人もそう多くはないと思うが、もしサウジアラビアを観光される方がいたら参考にしてほしい。
本当に無料なのか
トランジットビザの代金は無料である。ビザ自体は、無料だ。しかしこのキャンペーンに申し込むための手数料が39.50SAR(約1500円)掛かる。さらにビザ発行時には通常の観光ビザ利用時と同様、健康保険料の支払いが必要になる。それがビザの有効期間分、4日間で13SAR(約500円)。そして健康保険料に申し込むための手数料が39.50SAR(約1500円)掛かる。
……というわけで合計3500円。これを無料と表現していいかはともかく(日本では景品表示法違反だろう)、ホテル一泊と送迎が付いてくるなら悪くない。オトクであることは変わりないと思う。
SaudiaかFlynasの公式サイトで航空券を買う
まずは条件を満たすフライトを買うことから始まる。わたしが今回使ったのはサウディア航空なのでそちらを例に出すと、出発地と目的地、日付と人数を検索すれば乗り継ぎ時間が最小となる一般的なフライトともに、トランジット時間が96時間までのフライトがいくつか併せて表示される。私は現地で3泊できるような乗り継ぎ時間の便を予約した。一連の予約手続きのなかでトランジットビザの発行要望の有無を選択したり、ビザに印刷される顔写真のアップロードも行える。この顔写真の条件がいまどきめずらしく「200x200ピクセル、20KB以下のJPEGファイル」とシビアな値に制限されているので、スマホから予約するのは少し難しいかもしれない。
トランジットビザを受け取る
航空券の予約が完了すれば、Eチケットの控えとは別にPDF形式のトランジットビザがメールで送られてくる。この書面は搭乗時や入国時に何度か確認されるので可能なら印刷して持って行こう。
ここからが問題だ。特典として受け取れるはずのホテルだの空港送迎だのを予約するための方法は誰からも案内されない。
ホテル無料宿泊特典に申し込む
特典を申し込むためのページだが、これは現時点では以下のサイトからできるようになっている。PNR(航空券予約番号)と名前を入れるだけでよく、あとはウィザードにそって手続きを進めよう。
https://holidaysbysaudia.com/en-US/dynamicflow/pnrbased
難点はこのページへのリンクが航空会社サイトにもキャンペーンの公式サイトにもないことだ。特典適用のためのページにたどり着くところからハンター試験は始まっている。
妙に不安定なページで何度か502エラーに当たるが、根気よく進めていこう。申し込むタイミングによってはホテルの選択肢が限られていることもあるようで、私のときは市内のホテルが二件だけ表示された。レビューサイトなどを見て良さそうな方を選ぼう。ちゃんと朝食も付いてくる。
なお、別途料金を支払って延泊するなどの手続きはこのサイトからは行えない。あくまでも1泊分の特典を適用するためだけのサイトなのだ(いったいなぜ……)。必要があればホテルに直接延泊の可否を問い合わせよう。私はネットで翌日以降も同じホテルの予約を済まし、現地で同じ部屋の予約となるようマージしてもらった。
空港送迎を申し込む
ホテルの申し込みが完了したら、次は空港送迎の申し込みをしたいところであるが、送迎サービスのほうは申し込みのサイト自体が用意されていない。手続き方法もとくに案内されないのでまあいいかと放置していたところ、キャンペーンの事務局とおぼしき知らない番号からWhatsAppでフライト前日にいきなり連絡が届く。
アライバルゲートの一角にキャンペーンのブースが用意されているので、そこにおいで、という意味合いのメッセージだった。日本人でWhatsAppを使っている人はそれほど多くないと思うので、この連絡方法ではメッセージを受け取り損なう人も多そうだ。
空港到着時に教えてもらったブースに向かい、パスポートとサウジアラビア到着に使った搭乗券(実際にサウディア航空の便に乗った証明)を確認してもらう。チケットの半券は捨てずにすぐ取り出せるようにしておこう。余談だが、このブースは事前に連絡をもらってなければ絶対に見落としてしまう絶妙な位置に存在する。それにスタッフもいたりいなかったりなので、飛行機が到着したらすぐ迎えてくれるようWhatsAppで事前に連絡を一報いれておきたい。
スタッフに連れられ空港外に待機しているバンに乗り込む。利用者は少ないのでスーツケースはいくつでも乗せられそうだ。受付してくれたスタッフが乗客(私を含めて3人だった)それぞれの行き先をアラビア語でドライバーに指示する。すかすかのバンは朝焼けに染まるサウジアラビアの街を駆け抜け、市街地に点在するホテルに乗客を落としていく。
到着したカサブランカホテルはなかなか立派なところだった。航空会社からの送客になれているのか、午前8時まえにもかかわらず普通にチェックインをさせてくれた。暑いサウジアラビアの街をチェックイン時刻までうろつかなくてすんで一安心だ。ここに一泊タダで泊まれるというのはとてもありがたいし、公共交通がほとんど発達していないこの国で迷わずホテルまで直行できるのも嬉しい。
以上が特典の紹介と利用の体験談になる。素敵な特典ではあるがその使い勝手は明確に悪いし、無料かと思うとごちゃごちゃ手数料はついてくるし、改良すべき点は多いキャンペーンではあるが、もしサウジアラビアを(4日以内で)観光したいな、と思ったならオススメの制度だ。ドバイやアブダビ以外の中東の国にも行ってみたいなと思っているあなたのためのキャンペーン、いまのうちに使っちゃいましょう。