ツバルにいってきた その3

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食事

ツバルでは伝統的にタロイモやプラカイモとよばれる芋類、ココナツ、パンノキといった南太平洋でよく見られる食材が主食だったらしい。しかし現在は首都への人口流入が続き、長く続いた自給自足はもはや全く成り立たず、ほとんどすべての食材を近隣の国からの輸入に頼っている。遠い国々からの食料輸入はどうしても冷凍と缶詰ばかりになってしまう。限られた食材から作られる料理は正直に言ってあまり代わり映えのしないメニューばかりで、残念ながらツバルは美食の国とは言いがたい。

レストランに行ってもツバル料理が食べられるというわけではなく、どこにいっても揚げ物や中華料理のようなものがたっぷりのライスとともに出される。

ライスの代わりにヌードルを選ぶとインスタント麺を同じ食材で炒めたフライドヌードルが出てきたりする。どのお店に行ってもだいたいこんな感じだ。決して小食ではない私でもキツいくらいの量の炭水化物、冷凍の肉と少量の野菜を濃い味付けで炒めた中華。味は決して悪くないのだが、とかく不健康極まりない。ツバル国民の糖尿病罹患率はナウル、パラオ、マーシャル諸島に次いで世界第四位である。南太平洋の島国は、どこも肥満と糖尿病が非常に深刻な課題でありつづけている。

Sue’s Kitchen

およそ1500円

町で一番おしゃれなカフェ。今日のフードメニューはフィッシュアンドチップスとフライドチキンだった。こんなに分厚いフライは人生で初めてだ。とても美味しい。かなり多い。ちょっと重たい。

買い物

この町にもわずかながらお店がある。町の真ん中にはスーパーがあり、そこさえいけばこの国にあるものはなんでも手に入る。

ひときわ目立つ青い建物が目印

豊富と言ってもいいくらいたくさんの品があるが、しかし並んでいるものは先ほど触れたように日持ちする缶詰や冷凍食品ばかりで、そしてほとんどすべて輸入品なので価格はおしなべて高い。水のボトルもフィジーから運んできたものだ。日本のコンビニで買うよりさらに高い。

肉や魚はすべて冷凍庫の中。暑い国なので仕方ない

種類は少ないが生の果物や野菜もある

このスーパーが国内最大規模だ。もうすこし小さい商店は町にいくつかあるものの、冷蔵品などを取り扱っている店はほとんど無いため、すべての町人は必然的にこの店で買い物をすることになる。伝わる人が限られそうな表現だが、阿久根のA-Zくらい地元を支えているスーパーだな、と思った。

ちなみに島内にはビールを売っている酒屋もある。国内にブルワリーは無いのでもちろんすべて輸入品だ。そのため値段はけっこう高い。商品も冷えていない。

ツバルの外交

日本は世界各地に220以上の在外公館を持つが、ツバルには設置していない。ツバル唯一の国際線が就航しているフィジーもツバルに大使館を設置していない。ツバルの旧宗主国だったイギリスも置いてないし、世界一多くの在外公館を持つ中国の大使館もアメリカの大使館もない。EUも国連も当地に公館を設置していないため、世界的にも著しく隔絶された国であると言える。そのため、たとえばツバル人が他国のビザを取得したくてもツバルにいたままではその手続きはできない。まずはフィジーまで出かけてフィジーに設置された各国の大使館に出向く必要があり、フィジーに目的の大使館が無ければ、さらに目的の国の在外公館が存在する国にアクセスするためのビザを取得し……といった、手間もお金もかかる手続きも求められる。

ちなみに台湾の大使館はある。というかツバルに大使館を置いている国は台湾だけなのだ。台湾は公的な外交関係にあるすべての国に大使館を設置しているため、ツバルにも大使館がある。

落ち穂拾い

国内の求人情報

ツバルの仕事は限られている。若年層の失業率は2割を超えており、平均的なツバル人ひとりあたりの国民総所得も100万円に満たない。そのため多くの若いツバル人たちはほかの英語圏の国々、たとえばニュージーランドやオーストラリア、あるいはフィジーに職を求めて出稼ぎに行き、収入をツバルに残る家族に送金している。

野犬がたくさんいるので、子犬ももちろんたくさんいる。子犬の近くには怖い親犬がいるからあんまり近づかないようにと町の人に言われた。かわいくてもそっとしておこう。

ツバル国内に河川は一本もなく、一カ所の湧き水もない。そのため生活のための水は雨水と海水淡水化装置に頼るほかなく、ツバル全土で水不足が常態化している。雨水はかならずしも清浄でないため家屋の水道水は飲めない。喉が渇いたときは商店でミネラルウォーターを買おう。

帰り道

しばらく滞在したツバルを去る日がやってくる。もっと滞在したい気もしないではないが、しかし私はまだ行ったことのない国を優先して巡りたい。

ツバル到着に使った町中の空港にもどってきた。まぁ戻ってくるもなにも毎日空港の敷地内を通り抜けていたのだからそれほど新鮮さはない。この町ではどうやって移動しても空港を避けられないのだ。

チェックインカウンターに座るスタッフにパスポートを渡すと、彼女はそれと予約名簿とを見比べながらボールペンで手書きのチケットを作り始めた。

手書きの航空券はこれまで発展途上国の国内線なんかで発行してもらったことはあるが、ワンワールドアライアンスに加盟しているフィジー航空の国際線というかなりまともな路線なのに、記載内容はすべて手書き、座席番号はチケットに貼るステッカーで管理するという驚くほどアナログなものだった。

搭乗ゲート前の待合室に入ると、すぐに猛烈な雨が降り始めた。空港の天井に当たる雨粒はかなりの音量で待合室をノイズで埋めつくす。窓から見る分には風が強いようには見えないが、しかしすごい雨だ。東京だったら地上を通る鉄道は間違いなくすべて運休になるであろう雨量である。滑走路の端は白くかすんで見通せない。1時間や2時間の遅延があったとしてもせめて無事飛び立ってほしいものである。土砂降りのツバルでできることはほとんど無い。というか、部屋でごろごろするくらいしかほんとうにできなくなる。店だって閉まる。他の国だったら雨が降ったってショッピングモールをうろついたり博物館や美術館を巡ったりする観光の選択肢がある都市は多い。しかしツバルに限っては一切の屋内アクティビティは望むべくもないだろう。

搭乗開始時刻が訪れるが、待合室の中はけだるげな諦念が立ちこめている。アナウンスもないし、どれほどの遅延がおこりそうかどうかもわからない。出発時刻になっても搭乗開始の気配がないという状況はけっこう不安になるものだが、ツバルでは空港の搭乗口は一つだけ。フライトも今日のこの一本だけなので場所を間違えて乗り逃すことはあり得ない。小規模な空港というのは、こういう状況では間違えようがないという点においてそれなりに安心できるのだ。

結局1時間以上遅延し、かろうじて雨がやんだ隙に出発することになった。来たときに乗った小さなプロペラ機に乗り込む。機内の窓から町を見ると、来たときと同じようにツバル人たちが飛行機を眺めている。滑走路には野犬がうろついている。

プロペラ機は雨に濡れた滑走路を勢いよく走り飛び立っていく。眼下にはあまりにも細く、頼りないツバルの土地が横たわっている。西暦2100年には国土が海没し人が住めなくなると言われているこの国では、いつかは八丈小島のように全員離島せざるを得ない日がくるのだろう。下手すれば自分の寿命よりも先にその時がきてしまうかもしれない国に、いま行っておくことができてよかった。

おしまい