大徳寺納豆をたべた
大徳寺納豆という食べ物がある。東京で目にする機会はほとんどなく、食に対する好奇心が強い方であろう自分としても、名前こそ聞いたことがあるものの、いつか食べてみようと思ったきりすっかり忘れていた。
あるとき京都に行く機会があり、その際に泊まっていたホテルのお土産コーナーに大徳寺納豆の小さなパックが並んでいた。その場で迷わず購入し、部屋で開けてみることにする。
小指の先くらいの大きさで、固めの粘土のような質感をしている。納豆という名前だけど納豆菌は含まれておらず、粘ついていたりもしない。園芸用の軽石みたいな見た目で、これだけ何も言わずに食卓に出されたら食べていいものかどうか、迷う人もいるだろう。
食べてみると味は非常に独特で、私の記憶を遡っても今まで似た食材に出会ったことはない。強い塩気と味噌のような風味、発酵食品らしい少しの酸っぱさがある。納豆という言葉から思い浮かぶ納豆らしさはまったく感じられない。コクと旨みの概念を一粒大に圧縮したらこれができるのではという濃厚な味わいがある。これがお茶請けやお酒のおつまみとして供されるほか、刻んで調味料として使われることもあるという。うまいような、そうでもないような、評価の分かれそうな雰囲気をした絶妙な食べ物だ。
食べたことのないものを食べてみたいという人間の根源的な欲求が、人類の定義する食材という空間を拡張し続けてきたことを実感する。以前食べたタペシンコンやこの大徳寺納豆のような(私にとって)未知の味を来年も積極的に試してみたい。