ATOKを解約してかわせみ4に移行した

日本語入力にはATOKというIME(日本語入力システム)を10年以上つかっている。PC上で行う毎日の日本語入力のすべてに対し使い続けてきた。このブログの日本語文だって99%くらいはATOKで書いているはずだ。いま調べたら総文字数は73万文字もあった。だいぶ書いている。MacユーザーだしOSに標準搭載のIMEであれば無料で使えるのに、わざわざ長いこと毎月330円を支払ってATOKを使い続けてきたのは、いうまでもなくその高い変換効率によるものである。私はATOKなしで日本語を入力するなんてまったくできないとさえ感じるようになってしまっていた。

しかし2026年2月からこのATOKの価格が二倍になるというアナウンスがしばらく前になされた。これまでも小幅の値上げはあったものの、2倍になるというのは初めてのことである。正確にいえばこれまでスタンダードプラン(330円)とプレミアムプラン(660円)の2本立てだったものを、すべてのユーザーに対してプレミアムプランに一本化するということになる。とはいえ、私はスタンダードプランで不満がなく、私にとって余計な機能であるオプションサービス(クラウド文章校正やクラウド辞典など)を追加されたうえに値段も上がるというのはいくらなんでも承服しがたいということで解約することにした。AdobeやMS Officeのようなアプリケーションとは異なり、日本語IMEにおいては機能が増えることがそのまま価値が高まるというものではなく、むしろ存在を忘れるくらい静かなままでいて欲しいのだ。

ATOKをつくっているジャストシステム社はIT企業がそれほどたくさんあるわけではない徳島県に本店を構え、長く日本語入力システムの研究や日本語ワープロソフトの開発を行ってきた偉大な企業だ。日本人のソフトウェアエンジニアのひとりとしてこれほど応援したくなる企業もない。奇妙な書記体系をもつ日本語とデジタル社会を接続するためのインフラであるIMEへの研究開発を国内企業が行うことの重要さは論を待たない。にもかかわらずMS-IMEやApple日本語入力やGoogle日本語入力といった主要なIMEの多くは海外企業の管理下にあるし、散発的に話題になるが(下記ツイートを参照)正直なところそのプロダクトとしての完成度も低い。市場も小さく儲けも期待できない分野であるため新規参入も考えづらい。そのような状態が健全だとは思わないものの、私が解決できるわけでもないのでなんとなくお布施の気持ちもこめてこれまでATOKに課金をしてきた。

というわけで、せめてこれからも国産のIMEを応援しようと思い、乗り換えさきとして挙げられることの多かった「かわせみ4」に移行することにした。かわせみ4自体はべつに安価なソフトウェアではなく、3台までの端末でつかえるファミリーライセンスの価格は6600円で、これはかつてのATOKの月額の20ヶ月分ほどはする。月330円の支払いならよくても6600円支払うと思うと躊躇する値段ではあるが、それでもATOKの新料金なら年額で7920円もするわけで、しかも買い切り型なのだからコストパフォーマンスは良好だ。公式サイトでは体験版が配布されているので気軽につかい始めてみたところ、あまりにも軽快にうごく様子に驚いた。macOSの標準IMEやATOKが重たいと感じたことも別になかったのだが、かわせみを使ったあとだとあれらは案外重かったのではと感じられるようにすらなってしまう。なんらかのツールがRustで書き直されたときのような感動がある。

私は初めて使ったPCがWindowsだったためMS-IMEのキーバインドでないと使えない体になってしまっているが、それも標準で設定できる。ATOK時代のユーザー辞書もそのままインポートできるし、日本語入力のときでもホワイトスペースは常に半角にしたいとか、Shiftキーを押して入力をスタートしたときは英数字入力になってほしいとか、そういった細かなカスタマイズもすべて対応していた。軽量で高精度な変換機能と、シンプルで必要十分な操作性はたぶん誰でもすぐになじむことができると思う。brewでインストールできればな、とか、環境設定が単独のファイルでエクスポートできればな、とか、気になる点がないでもないが、とはいえ日本語入力はATOKじゃなきゃダメだというのは単なる思い込みだったのかもしれない。

ATOKのころのような精度のよさを感じるかというと、慣れもあるかもしれないしまだ短時間しか使ってないものの、個人的にはATOKほどではないと思う。しかし私の利用には十分な品質だとも感じられるし、十余年ともにしたATOKはすでに遠くに行ってしまった。私の求めるソフトウェアのあり方でなくなってしまったのは残念だが、これまでお世話になったことに感謝して見送ろうと思う。