2017-06-10

鳥取県岩美町にいってきた

とくになにも予定のない土曜日の朝、そういえば鳥取って行ったことないなと考える。鳥取といえば鳥取砂丘、マツバガニ、あとは全国で最後のスタバ進出地だったな、というくらいしか思い浮かばないが、鳥取砂丘の圧倒的知名度とそれに付随する莫大な観光資源に隠れてしまい、それ以外の名所や名物が目立っていないだけのようだった。鳥取には岩美という町があり、人気アニメの舞台となったことで知られている。山陰ジオパークと呼ばれる奇岩奇景のあふれる地区もあり、この町にはもうずっと行ってみたかったことを思い出す。それほど遠いわけでもないし、京都から岩美町までいこう。夜まで観光してみようじゃないか。

さっそく新快速で姫路までむかう。大阪を超えると人は減る。休日だけど下りの列車はがらがらだった。よく晴れて海がきらめいている。姫路駅で下車し、駅前のバスターミナルから鳥取行きのバスにのる。特に予約は必要なく、到着したバスに乗り込んで座ってるだけでいいみたいだ。土曜日の午前10時過ぎに発車する高速バスは、7人ほどしか乗客はいない。いつも通過ばかりしている姫路にもたくさんの観光名所があるが、今回もとくに何も見ることができなかった。

鳥取にむかうバスの車内はとても静かだ。お昼ご飯がわりに姫路駅のコンビニで買ったおにぎりをたべる。バスの車窓から見える景色はどんどん緑がつよくなる。すいた車内から遠くの山並みをみながらうとうとしていると、いつの間にか鳥取駅前バスターミナルに到着する。

岩美駅は鳥取駅から結構はなれている。3駅かそこらなんだけど、こういってはなんだが秘境駅ともいえるようなところばかりを通ることもあって駅間がとても長い。電車のきっぷだって片道320円もする。ターミナル駅である鳥取駅にも自動改札はないし、岩美駅にもない。そんなわけでICカードでは決済できない。切符にスタンプを押してもらい、降車駅で回収してもらう。乗客はほとんど地元の高校生だった。今日は土曜日だしきっと部活動だろう。若い男女(私も若者のつもりだったけど高校生たちとは12歳も離れているのだ…)の学生たちと一緒にボックスシートに揺られて20分ほどで岩美駅に到着した。意外にも10人ほどの乗客が一緒におりた。

岩美駅のすぐ目の前には観光協会がある。何年か前に大ヒットした水泳部の男子高校生たち題材にしたアニメ作品、その舞台がこの鳥取県岩美町で、放送が終了してから数年たつ今でもたくさんの観光客(アニメのロケ地に行く行為を聖地巡礼という)がこの地を訪れているという。この観光協会では坂の多い岩美町を快適に廻れるように電動自転車のレンタルを行っていたり、アニメの各シーンの元ネタとなった場所を案内する地図を配布している。例にもれず私もここで自転車を借り、マップを受け取った。わたしもこのアニメが好きだったのでわくわくする。

しかしこの自転車の運転は本当に快適そのものだ。電動自転車というものに乗ったのは初めてのことだが、これはもはや原付と変わらない感覚で進める。それなりにキツい坂でもすいすい登れる。Panasonicの結構いい自転車のようだ。

自転車をこいで海岸まで出る。ここもロケ地として有名な場所だ。何人かの巡礼者がすでにスマホで写真を撮っているところだった。何年か前に台湾の九份に行ったこと、スウェーデンのヴィスビーに行ったことをのぞけば、これまで聖地巡礼といえるようなことはしたこと無かった。しかしやってみるとこれはなかなか面白い観光のしかただなと思う。アニメや映画やドラマのロケ地というのは、その作品のキャラクターたちが息づいていた場所であり、現実と虚構の境となっている。第四の壁が崩されたような場所だ。 余談だがソードアートオンラインというアニメがあり、その作中にずいぶんといろいろ見覚えのある風景がでてきた。主人公の通う高校が自分の卒業した高校であったり、放送当時に住んでいたタリン市街地のラエコヤ広場が映ったり、そのアニメが面白かったこともあってなかなかうれしかった。 少し雨が降ってきた。傘は持ってきていないのでぬれる一方だ。空は灰色に曇っていて、海の青さも薄暗い。曇りの海辺も趣深い。

初めて来る場所だけど見覚えがある。この神社もよく登場していた。こんな海の目の前にあったのか。

雨はどんどん強くなってくる。さすがにもう暖かい季節とはいえビショビショのまま観光するのは気分が良いものではないし、ここでしばらく雨宿りすることにした。雨の音と波の音が聞こえる。何をして待つでもなくぼんやりと水平線を眺める。しばらくまっても雨はやまなかったが、しかし弱くはなってきた。時間ももったいないし霧雨のなかを自転車で走る。急な坂を越えると視界はひらけた。

full

うん、すばらしい景色だ。波が鋭くとがる岩礁にあたり白くくだけている。小雨がふり空はこれ以上なく曇っているが、やはりこれはこれでいい。雰囲気がある。

黒い瓦の屋根が集まる地区に出てきた。ちょうどここが主人公たちの生まれ育った町だったような気がする。それほど大きい集落ではないし、お店も見当たらない。しかし小学校が近くにあるようで、子供たちも町の通りで遊び回っていた。

海辺が見渡せる高台には休憩所のような場所がある。街も漁港も一望できる景色の良い場所だ。この街はどこを見てもどこか見覚えがある。あの映像は私の記憶によく溶け込んでいたようだ。不思議な気分だ。

left right

パンフレットに載っていたアニメのワンシーンと実際の場所を比べてみる。なんというか、やはり作中でみるほうが綺麗ではある。しかし現実世界とここで交わっているのだ。そう考えると素敵かもしれない。

このお店も作中に精巧なかたちで登場していた。初めて来た場所なのに、作中のシーンを下敷きにしているからかひとめみただけで懐かしい気持ちになる。

エストニアに留学していたときの友人がいうには、日本に観光で来てアニメでみた景色がそのまま日本の景色として登場するのを知ったとき、作品に登場する風景が本当にaccurateであることに関心したという。アメリカのアニメにもそのようなシーンがあるのかどうかはよくわからない。私の浅い知識ではサンフランソウキョウくらいしか思い当たらないが、それも二つの世界都市を融合させた状態を描き出しているにすぎない。現実に即した情景を撮影するのではなくイチから描き出し、聖地巡礼というひとつのイベントにまで昇華させることができるのは、もしかしたら日本独特の文化だろうか。映画やドラマの撮影場所となった場所に訪れることは普通のことだ。ローマの休日に登場するスペイン階段でジェラートを食べたカップルは数多い(いまは飲食できなくなってしまった)し、アルバカーキにはブレイキングバッドのロケ地ツアーが存在する。そうした例は枚挙にいとまがない。3Dの光景を2Dの世界へ精密に模写し、その絵を見た消費者が3Dの世界を旅するという聖地巡礼はなかなかなさそうだ。そう思ってアメリカ人のアニメファンに尋ねてみたが、やはりその通りでドラマや映画であればツアーはたくさん企画されているが、そもそもアメリカで制作されるアニメ作品の多くでは日本製アニメほど現実の環境を作中で精緻に再現させるということをしないのだという。となるとやはり、聖地巡礼という行為自体が極めて日本的なイベントであることは明らかだ。anime pilgrimageという言葉で表現されたとて、海外のアニメ作品でこれを行うのはなかなかむずかしいのだろう。

right そんなどうでもいいことを考えながら鳥取駅に戻ってみると、駅舎から出られないくらいの強い雨が降っていた。駅からすぐ近くにあるアーケードのなかをうろうろする。目に付いた定食屋さんで豚丼を注文した。おいしい。地元で育てられた豚が使われているらしい。
そうして晩ご飯を済ませてアーケードにもどっても、雨は天井に当たり続けている。岩美町の後は砂丘を見に行こうかと思ったけど、これではなにもできない。しかたないので京都に帰ることにした。帰りは大阪へ向かうバスに乗り込む。車内には私の他は3人ほどだ。車窓にはとどまることを知らない雨がいくつかの流れをつくり、風に煽られながら流れ続けていた。