2019-10-15

サンマリノ共和国にいってきた

ヨーロッパの小さな国をまわる、という目標を達成するのは意外と手間がかかる。モナコやバチカンのように周辺国の首都から近いアクセスに便利な小国もあるが、アンドラやリヒテンシュタインのような不便な国もある。限られた訪問手段しかない国へのアクセスは、それなりにガッツと旅の知識がないとなかなかたどりつけない。ナウルだってそうだった。

今回わたしがいきたかったヨーロッパ小国旅行のハイライトでもあるサンマリノ共和国は、イタリアの半島のうちの東側、アドリア海に近い位置にたつ丘の上にある国だ。アクセスは結構わるく、たとえばローマやベネチアやミラノやナポリみたいな大都市からは遠く離れている。基本的に東海岸には大きな都市がないので仕方が無い。とはいえ鉄道網が発達したイタリアのこと、ローマからでも片道3時間、乗り換えはボローニャでの一回だけで最寄りの駅「リミニ」までたどり着ける。

ローマ駅を朝6時に出発する国鉄にのって移動する。まだ日が昇る前だけど、それでも列車にはたくさんの乗客が乗り込んでいた。ローマに住んでいる人に話をきくと、イタリア人は結構早起きなのだという。暗いうちから、たとえば朝五時とか六時からオープンしているカフェも珍しくない。そんななかで見かける甘いお菓子なんかを朝ご飯に食べるという彼らの食文化は、ヨーロッパのなかでもやや特別に見える。イギリスでもドイツでもしょっぱい朝食が主流だったように思う。とはいえ私はそんなに空腹でもないので駅の売店で水のボトルだけ買って乗車した。列車は夜明け前の暗いローマ市街を走っていく。ほどなくして緑豊かな(暗いので本当に緑なのかどうかはわからないが)郊外を走るようになる。ローマから乗り継ぎ駅のボローニャまではかなり距離があり、また時間もかかるものの、特急列車なら多少居眠りをしていても問題になることはないだろう。日本とはちがいイタリアの地下鉄で居眠りするのは、さすがに不安がある。

すっかり日も高くなるころにリミニ駅に到着し、駅前のキオスクでサンマリノ行きのバスのチケットを買う。往復で10ユーロ、キャッシュオンリーだった。毎日バスが何本もでているとはいえ、とくに電車との接続がはかられているわけではない。中途半端に時間が余ってしまったのでキオスクの横にある喫茶店で食事を取る。

イタリア・ロマーニャ地方のソウルフードといわれるピアディーナだ。リミニは小さい街だが、このピアディーナの専門店が40軒以上あるという。ピアディーナをくれ、と頼むと「何を挟む?」と聞かれた。なにを挟むのが普通なんだろう?よくわからないので「オーディナリーな感じで」と言うと「ハムとモッツァレラでいいか?」と聞かれたのでそれでいいと返す。シンプルな料理だ。ちゃんと温かいししっかりおいしい。欲を言えば野菜を入れてもらえるようお願いしておけばよかった。これは日本で食べられるのだろうか。

まだ太陽は南中する前にもかかわらず、イタリアのさっぱりしたビールを飲み、もぐもぐとピアディーナをひとりで食べている自分の姿を想像し、海外旅行の醍醐味を味わっているなという気持ちになる。たまらなく気分がいい。きっとこの感覚にハマっているのだ。自分のことを誰もしらない世界にいて、自分自身にもなんの義務感もない状態が心地良いのだ。なんか似たようなことを前の記事で書いたかもしれない。

バス亭は往復チケットを買ったキオスクから20メートルほどのところにある。出発時刻の10分前には行列ができていた。この人数が一台のバスにはいるのだろうか、そもそもこんなにたくさんの人間がサンマリノなんかにいくのか、意外に思う。バスにはちょうどぴったりくらいの人数が収まった。私の隣には大きな荷物をもったおじさんが座ってきたのですこし嫌な気持ちになったが、彼はサンマリノに到着するまえに降車していった。

バスには数十分のっていた。途中にバス亭はあったが、だれも乗り込んでくることはなかった。けっこうな坂をのぼっていくので歩きでは厳しいだろう。素直にバスにのっておくことで間違いない。終点がそのままサンマリノだ。ついに到着した。69カ国目の旅行先、サンマリノ共和国に到着した。

丘の上にある国だ。1000の丘の国と称されるルワンダの景色に似ている。よく晴れて日差しはあたたかい。時期がとてもよかった。完璧な気候だ。透き通った風が気持ちよく吹き抜ける。

近くに高い山があるわけでもないため、この国からはアドリア海が遠くに見える。地中海らしいオレンジの屋根と緑が美しい。

観光スポットの城跡にものぼる。こんな高い場所にたくさんの石を積み上げて作ったのだからたいしたものである。

街の観光案内所にいくと、(5ユーロもするが)パスポートスタンプをおしてくれる。サンマリノ共和国は、イタリアと地続きで明確な国境もないが、それでも国連に認められた独立国家なのだ。スタンプだって押す権利があるのだという。このスタンプけっこう人気があるようで、わたしのほかにもアメリカ人の老夫婦が一緒にもらっていた。この旅の道中、アメリカからの観光客を多く見かけた。対して日本人はあまりいなかったように思うが、ちょうど日本全国で巨大な台風が猛威を振るっていたから旅行を取りやめた人が多かったのかもしれない。かといって中国人韓国人がおおいわけでもなかった。

サンマリノは世界で5番目に小さな国家だ。しかもその観光地はいまいるこの丘の上にほとんど限られる。そんなわけで半日もいれば十分回りきれる。しばらくうろうろと城跡をみたり土産物屋をみたり小さな噴水を見ていたが、そんなにたっぷり時間を潰せるような場所ではない。イタリアに帰ることにした。まだ日も高い。せっかくだから往路で乗り換えだけしたボローニャに行ってみよう。夕方の短い時間でも街並みをながめ観光してみるのは楽しそうだ。

リミニ駅にもどってボローニャ行きの列車に乗り込む。ボローニャといえばボロネーゼだ。日本でも食べたことはあるが、きっと本家本元のボロネーゼはうまかろう。とりあえず有名な店をスマホで調べて言ってみることにする。気軽に入れる店らしく、またランチタイムとディナータイムのあいだに閉店を挟むこともない。素晴らしい。店に入ってみると、なんというかワンランク上のちょっと高いチェーンみたいな雰囲気の店だった。注文も会計も店に入ってすぐの液晶ディスプレイから行う。支払いもクレジットカードをタッチするだけだ。すばらしい。観光客にぴったりの店があるものだなと関心しつつ、注文したワインとボロネーゼを受け取りあいてる席につく。

大変なことになったなと笑みがこぼれる。これはいくらなんでもおいしすぎる。イタリアの食事はやはりパスタなのだと実感する。ボローニャで食べるボロネーゼはかくもおいしいものなのか。途中下車した甲斐があった。すばらしい。挽肉も、トマトソースも、手打ちしているらしいパスタも、すべてが完璧だった。十分なボリュームがあったが、これ一つだけを食べて帰ってしまうのがあまりにももったいなく、結局もう一度同じ内容を注文してしまった。血糖値は爆上がりだろう。しかたない。おいしいのだから。

ボローニャは学生の街として広く知られている。ヨーロッパ最古の大学を抱えているというのも街の誇りだろう。学生らしき若い人がたくさんおり大変活気がある。たまたま電車の乗り継ぎのために着たが、もっとしっかり滞在してみたいなと思った。滞在中はずっとボロネーゼを食べ続けたい。三食あれでもよい。それくらいおいしかった。

夕暮れが近づき、ローマに帰る時間となる。朝と同じように暗くなったイタリアの田舎町を、たくさんの乗客をのせて速度を落とすことなく走っている。明日はバチカンにいこう。今回の旅の3カ国目だ。世界で5番目に小さい国の次は、世界で一番小さい国への旅だ。

つづく