タウシュベツ川橋梁にいってきた
いつかいこうと思ってた場所シリーズのうちの一つだ。すでに廃線となった国鉄士幌線という鉄道路線が北海道の帯広を起点として北へ延びていたのだが、そのほとんど北端、鉄道士幌線の終点のほど近くに「タウシュベツ川」という川があり、その川を乗り越えるための美しいアーチ橋が作られたという。廃線となってからはとくにメンテナンスもされていないため、冬期の降雪や北海道の寒さによる凍害によって橋は崩落しそうになっている。見に行くことにした。
タウシュベツ川橋梁は上士幌町という、北海道のなかでもことさらにアクセスに不便な場所にある。そこまでは十勝地方最大の都市である帯広からの路線バスで行くことができるが、とにかく遠いしのんびり走る路線バスだと片道2時間ほどの旅となる。バス自体は一日に4-5本でているのでアクセス困難という場所では決してないが、しかしタウシュベツ川橋梁を見るツアーに参加するためには朝7時出発の一番早い便に乗らなくてはならない。できることならレンタカーを使った方がいいだろう。わたしは車の運転が苦手なので迷うこともなく路線バスで向かった。往復2660円かかるが、十勝バスの一日乗車券を使えば1500円で乗れる。使わない手はないだろう。PayPayで支払えるので便利だ。
バスの車窓はは北海道らしい景色をみせながらまっすぐ進んでいく。広大な牧草地帯とよどんだ空は不吉さを感じさせる風景になっているし、なんなら小雨もぱらついている。太陽が出てきてほしいところだ。
この路線の主な顧客は高校生のようで、上士幌高校前バス停で大半の乗客が下車する。帯広駅からここまではゆうに1時間以上かかる。ずいぶんな距離を乗り越えて通学しているんだなと感心した。
バスがツアーの出発地である「ぬかびら源泉郷」に到着すると、ツアーのスタッフがバス停まで迎えに来てくれていた。私の他にも参加者は7人ほどいただろうか、新型感染症への対策として予約可能人数を絞ってはいるようだが、このツアーは基本的に毎日満員になる人気のアトラクションらしい。全員靴をぬいで用意されている長靴に履き替える。わたしでも履けるかなり大きなサイズの長靴もあった。代金を支払いツアー用のバンにグループを分けて乗り込む。私のバンにはほかに二人の参加者がいた。
バンが到着したのは糠平湖(ぬかびらこ)の湖畔、士幌線の沿線でもあった森の中。鉄道路線が数十年前にこの森の中を通っていたものの、いまでは線路自体は撤去されているため盛り土以外の痕跡はみられない。全ては草木に覆われている。
流木のわきを歩き糠平湖へぬけていく。これらは糠平湖が増水したときに散らばり、湖面が下がるとまたその地点に腰を下ろすのだという。
森の小道を抜けると糠平湖の湖畔にたどりつく。ゆるやかな崖になっていて、晴れ間も見えてきて日差しは明るい。すでに風化しているためわかりにくいが、タウシュベツ川橋梁が目前に現れた。転ばないように手頃な流木を拾って杖代わりにし、アーチが見やすい位置に向かうべく崖をおりてみる。
美しい9連のアーチがつらなったタウシュベツ川橋梁が一望できる。コンクリート製の橋としてはあまりにも酷な環境で、下は川になっており冬期には凍結するし夏には融解しその足を洗う。しみこんだ雨は橋脚内部で凍結して膨張し、内部から破壊される力も加わることを考えると、いま崩壊して中の石をこぼしている二カ所のアーチ以外もそう遠くない未来で崩壊してしまうのだろう。保存措置を一切とらずに見守っていくタイプの歴史遺産であるため、いまの姿はいましか見られない。
昔のツアーではこの橋の上を歩いたりすることもできたそうだが、現在はもう案内していないという。大人が上を歩いたらこの橋にトドメをさしてしまうことになるだろう。
橋脚の中身になっている大きな詰め石は一部こぼれ落ちていて、落石の危険があるため橋の下部には近づけない。
この橋を進む列車については映像も画像も残っていないのだという。我々には往時の様子は想像することしかできない。いつかこの橋も姿を消してしまうのだろう。このタイミングで見ることができてよかった。