自分のルーツをさぐってみよう

パスポートの交付を申請するとき、必要となる書類のひとつに戸籍謄本がある。この戸籍謄本には両親の名前がのっているが、じつは自分の身分証明書と戸籍謄本さえあれば両親の戸籍謄本を勝手に取得することができる。さらに自分の身分証明書と自分の戸籍謄本と両親の戸籍謄本があると、こんどは祖父母の戸籍謄本が取得できる。この仕組みをつかって、自分の親や祖父母の戸籍をどんどん取得していけば家系が、最終的には自分のルーツがある程度わかる。

一般に戸籍は各市区町村で管理しており、たとえばほかの市に本籍を置いている人の戸籍謄本はその市まで赴くか、あるいは郵送によって取り寄せる必要がある。この郵送取得は結構面倒で、請求書や身分証明書のコピーはいいとして、同時に同封する返信用封筒、切手、手数料がやっかいである。A4の紙1〜2枚で収まる戸籍謄本であればいいのだが、電子化されていない時代の戸籍はマイクロフィルムで管理されている場合もおおく、それらは一体何枚になるのかがわからない。1枚かもしれないし10枚を超えるかもしれない。するといつもの封筒にはおさまらないため切手代金はわからない。多めに封入しておくほかない。また、戸籍制度はその長い歴史のなかで何度も改正されていて、市区町村で管理されている戸籍謄本には複数のバージョンが存在する。そのどれを取得するか、あるいはすべて取得する場合であっても、戸籍筆頭者の生没年がわからない以上こちらも何部取得する必要があって合計いくらかかるのかが事前にわからないのだ。一部欠損していて文書不存在という場合もある。そのため個人的には旅行のついでなどの機会をつかって直接区役所などで取得することをおすすめしたい。

私は当時住んでいた葛飾区の区役所にいき、複製できないように透かしの入った戸籍謄本の写しを交付してもらった。それを元にまずは両親の、そして祖父母の戸籍を取得していく。基本的には取得できる戸籍謄本の数は倍々になっていくため、一代さかのぼるごとに2倍の手数料がかかる。また、電子化される前の改製原戸籍と呼ばれる手書きの謄本の場合は一通取得するのに750円かかる。さかのぼればさかのぼるほど、結構な金額の手数料がかかっていくのに注意されたい。

どの都市であっても大戦下における○○大空襲などの戦災によって失われている戸籍もおおく、必ずしも初期の戸籍が完全な状態で取得できるわけではない。移民として国籍を取得していたり、当時日本に併合された国々の出身者だったりして戸籍が存在しない、あるいは滅失してしまったりすることもある。そのような場合は無料で文書不存在であるという証明書が発行してもらえる。また、最初期に編製された壬申戸籍と呼ばれる戸籍については被差別部落民かどうかの情報が含まれる(場合がある)ということもあり、現在はその閲覧は禁止されている。現在我々が取得できる最も古い戸籍が明治19年のもので、そこには1800年代なかごろの幕末を生きた自分の祖先たちがどういう名前を持ち、どこで暮らし、何人の子供をもうけたのかが明確に記されている。もちろんそれだけでも大変すばらしい。

壬申戸籍成立に関する研究 新見吉治/著 – 日本学術振興会 – 1959

ちなみに壬申戸籍というのはこのようなもので、1968年に閲覧制限が課され封印される前に取得や撮影がなされたわずかな画像しか存在しない。この画像は東京都内で一般人が普通に借りられそうな渋谷区図書館に閉架資料としてあった書籍からの引用だが、書籍自体が経年によりかなり傷んでおりいずれ処分されそうにみえる。著者は50年前に亡くなっており、内容としても需要としても再版はされなさそうである。調べたところ、公共の図書館にはなくても全国の大学図書館にはあるようだ。ちなみに神保町の古書店では一冊3万円するなかなかの稀覯本である。

戸籍という文書の取り扱いについては戸籍法に基づいていて、その保管期限は2010年までは80年間、それ以降は150年間の保管が求められている。しかし保管については期間が設定されているものの、廃棄についてはその判断を各自治体が行っているため、処分されずにそのまま保管されている場合が多いとされている。とはいえ興味があれば急いで取得するにこしたことはないだろう。古文書の部類であるため、法律の改正や文書保存状態の悪化によって永久に失われてしまう可能性はある。

私の家系については、私の両親を含めまだご存命の方ももちろんいるし、一般に出身地というのはデリケートに扱われるものなので詳述はしない。それでもわたしのようなごく普通の一般人であっても自分のルーツには目を引くような事実がたくさんあった。自分まで続いてきた血のつながりを大切にしたいと思う。