PCR検査を受けてみた

長いこと飲み会もできず、マスクなしでの外出もできず、アルコール消毒と検温を毎日何度も求められる社会で生きていくようなってから2年目になる。我が国でのワクチンの接種が日々加速し順調に進んでいることからも、たった2年で未知の疫病を鎮圧できるのは人類の勝利という感じで(私はなにひとつ貢献できていないのに)感慨深い。

ある日街をあるいていると、内閣府の新型コロナウイルス・モニタリング検査のご協力をお願いしまーす、と呼びかけているスタッフがいた。私はこの手のボランティア系イベントが好きなので迷わず参加しますと声を掛ける。要件は簡単なもので、スマホが使えること、検査キットを受け取ってから数日以内に唾液を採取し、即日の郵送ができることなどの簡単な項目しかない。当然問題などないので、検査結果の通知に使う専用のスマホアプリをその場でインストールし、検査キットの入った無地の紙袋を受け取って自宅に帰った。

もらった紙袋から中身を取り出してみる。唾液を採取するための漏斗、ウイルスを不活性化するための薬液が入った筒、バイオハザードのマークが入った密閉できる袋、組み立て式の発送用の着払い伝票などが入っていた。採取から発送までは意外と複雑で、安全につくられているとはいえ下手したらこの一年間恐怖を散々煽られ続けた唾液やその飛沫が陽性患者のものかもしれないと思うと、ジップロックに放り込んでおしまいというわけには当然いかない。

ガイドの冊子によればソフトバンクグループのヘルスケア系スタートアップが運営しているらしい。さすがの政治力である。唾液の採取にあたっては、事前にインストールしたスマホアプリが丁寧に指示してくれるのでなんら迷うことはない。小さなプラの試験管みたいな筒に、漏斗をつかって唾液を流し込む。人生でこんなに唾液をがんばって出そうとするのは初めてだ。案外キツイ。規定されている必要量が思いのほか多い。少し時間はかかったが、なんとか十分な量を採取して厳封する。容器を軽く振り最初から入っていた透明な液体とよく攪拌する。唾液はウイルスを不活性化するためのこの溶液と混ざり合って感染させる力を完全に失うらしい。

UN3373の表示が印刷された輸送用の箱を組み立て、3重にしっかり梱包して検体を納める。配達伝票を貼って近所のゆうゆう窓口へ向かった。配達伝票の品目欄には「新型コロナ検体」と印刷されている。こんな不安を煽る配達物を窓口に持ち込んで拒否されたりしないだろうかとすこし不安になったが、何事もなく受付された。いまどきそこらへんのドラッグストアでも安価にPCR検査キットが販売されている世の中なので、いまさらこの程度の郵送でぎょっとしたりはしないのだろう。

検査結果は検体の到着後一日か二日で登録される。この検査では陰性だったようだ。感染する心当たりがあるわけではなかったが、こうして陰性の表示をみると結構安心する。あやしげなクリニックが電車内や街中の広告でPCR検査やってます、いくらです、とアピールしている景色はおなじみなものになったが、検査したところで感染症対策に効果があるわけでもないのにこうして束の間の安心を生み出しているのだと思うとあれは相当おいしいビジネスである。

多くの国民がワクチンを接種したら新型コロナウイルスに感染する人の数も当然減るし、そうなったらPCR検査をする機会も理由もなくなる。30年生きてきて一度もPCR検査なんてしたことなかったし、コロナ禍の前まではこのような検査方法の存在だって知らなかった。そう考えると、いま無料でPCR検査の体験ができて、かつそれが我が国の感染症対策への協力ができるというのは楽しい体験だった。これからも新体験をたくさん味わっていきたい。