バチカンで出産した場合、子供はバチカン市国の国籍を持つのか

世界最小の国として知られるバチカン市国。イタリアのローマ市内に存在する国家だが、国家と呼ぶにはあまりにも特殊である。同国における国籍という概念も特殊で、バチカンでは国籍はローマ教皇庁から一時的に付与されるものと規定されている。多くの国では出生地主義や血統主義と呼ばれる一定のルールによって国籍の取得が説明されており、例えば日本の国籍は両親から受け継ぐものだし、アメリカの国籍はアメリカで生まれることが国籍獲得の原則となっている(外交官である場合などは国外で出産しても子供はアメリカ国籍となるようだ)。バチカンでは例外的にそのどちらでもない。

ではどのようなときにバチカン国籍を獲得できるのか。その条件も明確化されており、当人がバチカン市国内に居住・勤務する者、その配偶者並びに子供に付与されるものとされている。また当人が付与される条件を満たさなくなったとき、バチカンの国籍は無効になる。従ってバチカン国籍を持つものはみな二重国籍となるのだ。現在のローマ教皇フランシスコもアルゼンチン国籍を持っている。

バチカンには妊婦が安全な出産をするような産婦人科を持つ病院は存在しないが、もし仮に、出生地主義の国の国民(たとえばブラジル人)がバチカンの領土内を旅行しているときに出産したとしたら、その生まれた子供の国籍はどうなるのだろうか。ブラジルは出生地主義の国であるため国外で生まれる子供は自動的にはブラジルの国籍を得ることはできない。ではバチカン人になるかというと、そういうわけでもない。前述のようにバチカンの国籍はバチカンで生まれても取得できないし、バチカン国籍を持つ親から引き継がれることもない。というわけでこの子はブラジル人でもなく、バチカン人でもない。では無国籍になるのかというと、それもまた違う。なにもしなければイタリア人になるのだ。

この取り扱いは1929年にイタリア政府と聖座(ローマ教皇及びローマ教皇庁(政府に相当)を総称した概念)との間で合意されたラテラノ条約において定義されている。バチカン市国内に永続的な住所を持たない場合で、かつほかの国籍を取得したと考えられない場合はイタリア市民であると見なす、とある。

Cessando di essere soggette alla sovranità della Santa Sede, le persone menzionate nel comma precedente, ove a termini della legge italiana, indipendentemente dalle circostanze di fatto, sopra previste, non siano da ritenere munite di altra cittadinanza, saranno in Italia considerate senz’altro cittadini italiani.

加えてイタリアの国籍法でも、生まれてから継続してイタリアで生活を送っていればイタリアの国籍を申請できるとある。もちろん実際には無国籍者の発生を防ぐために両親の国籍を受け継ぐよう在外公館の担当者により適切処理されるが、杓子定規にルールを適用すると以上のようになるのだろう。

参考: