ドイツでブースター接種をした

以下に記す接種までの流れは非常に限られた状況でのみ有効で、かつ再現性については不明です。

私は東京都文京区役所から送られた接種券と住所地外接種届を使い、大阪市で二回の新型コロナウイルスワクチンを接種している。その後日本の接種証明書を取得し、それを元にスイス政府の発行するデジタル接種証明を取得した。ヨーロッパの多くの国ではこのデジタル証明と身分証明書(私の場合はパスポート)を併せて提示することでレストランやミュージアムなどの施設に入場することができる。しかしドイツに関しては非常に厳格なルールが国全体に適用されており、たとえばマスクはその濾過性能について特定の規格のみ利用可能とされており、普通の不織布のマスクなどではレストランや博物館や小規模な商店には入ることすらできない。また、そこまで厳密ではないが鉄道などの公共交通でも同様のルールの遵守が求められている。なのでその規格のマスクを事前に購入せずドイツに入国してしまうとかなり困ったことになるだろう。わたしはなった。とはいえある程度大きいスーパーマーケットではチェックする人もいないし働いている人もマスク無しでうろうろしていたりするので、そういうところで一つ買ってしまえばなんとかなる。

スーパーで売ってたFFP2マスク。ひとつ45セントだった

ドイツには2G、3Gと呼ばれる制限が様々な場所で適用されており、これはワクチン接種済みの人(Geimpft)、罹患し回復した人(Genesen)のどちらかであればOKという2Gルール、それに加えて検査で陰性証明を取得した人(Getestet)を含めた3Gルールというものが存在している。ワクチン未接種の人であっても市内で無料で受けられる陰性証明でOKだった。しかしこの3Gルールは最近急速に廃止され、現在はワクチンを接種していない人の行動制限は非常に重くなっている。新しい2Gプラスルールというものがドイツ全土で適用されているためだ。これは2Gルールに準拠した上(つまりワクチンを打った上)、さらに24時間以内に取得した陰性証明を提示するか、ブースター接種を受ける必要があるというものになる。世界的にもかなり厳しいルールなのではないだろうか。

マクドナルドに入るだけでも店員がひとりひとり接種証明とIDを確認する

私はワクチンの接種に抵抗はまったくないので当然一刻も早くブースター接種を受けたいのだが、日本でブースター接種を受けるためにはまだ最後の接種からの期間が短いし、空港で接種が受けられる制度の3回目接種は現時点で受け付けられていない。私は頻繁に引っ越しているしどこに問い合わせればいいのかもよくわからないため、海外で受けることにした。

滞在しているカールスルーエという街が提供しているブースター接種についてのサイトをつぶさに調べてみたところ、恒久的な住所や有効な保険証を持たなくてもドイツ国内で接種を受けることができそうだということがわかる。念のためドイツで使われている接種のデジタル証明書アプリをインストールし、スイス政府が発行した接種証明を読み込ませていつでも提示できるようにしておいた。カールスルーエ市のブースター接種は事前予約制なので、街の中心部にあるKammertheaterというところのあきスロットを適当に予約した。事前に接種の事前診断用のフォームを記入して印刷し、接種に同意する旨のチェックと署名を直筆で加える。すべてドイツ語だが、内容はよくあるものなのでそれほど難しくない。

予約の時間が近づいてきたので肩を出しやすいように防寒着の中に半袖のTシャツを着て接種会場に向かう。事前に憶えた「ブースター接種を受けたい」という意味のドイツ語を口にしつつ、印刷したフォームと予約確認メールをスマホで会場入り口のスタッフに見せると最初の受付に案内してもらえた。フォームを手渡し、IDを見せてくれと言われたので自分のパスポートを渡す。案の定保険証を持っているかとか在留許可証を持っているかといったことを聞かれたが、私はカード類はもっていない、最初の2回の接種は日本で受けており、ドイツ国内に一時滞在しているという旨を説明する。「オーケー」という言葉とともに、事務連絡用だろうか、QRコードや私の名前に生年月日などが印刷されたペラペラのA4用紙がパスポートとともに渡された。よかった、とマスクの中で息を吐き安堵する。市民限定だよ帰ってくれ、と言われたときに反論できるように行政のサイトをスマホで開きっぱなしにしておいたのだが、不要だったようだ。

あちらにいってくれと指さされたところは日本で集団接種したときよりもかなり簡素な、パイプ椅子が一つおいてあるだけの通路のような場所だった。そこに学校の会議室にあるような長机が二つならんでおり、その向こうに防護服を着た女性が二人と、先ほど渡されたペラペラの紙をスキャンする役割のおじいさんが座っている。Dr.と最初についた名札をつけた女性に促されパイプ椅子にすわり、最後に接種を受けた日付とそのときのワクチンの種類を聞かれる。「July thirtieth, Comirnaty」と答えると、次のワクチンはモデルナだよとドクターに告げられる。わたしはどちらでもよいので「オーケー、ダンケシェン」と返す。ドイツなのにモデルナなのか、と思ったが、現在在庫が足りておらずモデルナのみとなっているらしい。

接種の流れは日本で受けたときとなにも変わらず、上着を脱いで肩をだし、アルコール消毒された皮膚に注射を打つ。注射後は小さな絆創膏のようなものを貼って15分会場で待っているようにと(ドイツ語で指示されたので多分なのだが)言われる。接種会場はちょっとしたシアターだったため、その上映室が待機場所だった。スクリーンにはドイツの音楽番組なのか、ミュージカルのようなものが流れていた。国をまたいでワクチン接種をすることができた。かなりエッジケースだと思うが、おなじような状況の人もどこかにいるのだろうか。

20分ほど待機して、とくに体調に変化もなかったので会場を去った。副反応はいまのところ出ていない。一回目の接種も二回目の接種も私はつつがなく終わっており、なんらわかりやすい症状が出ていないので今回も同じかもしれない。先ほどのペラペラの紙は接種完了後にそのまま接種証明書として使われる。印刷されたQRコードをスマホのデジタル証明書アプリで読み込むと、確かに私が3回目の接種を済ませたという表示に切り替わっていた。これでドイツでも自由に観光することができるようになるし、3回目の接種が入国の条件になっている国にも入国できる。

ドイツ政府よ、バーデン=ヴュルテンベルク州よ、どうもありがとう。滞在による税収入で恩返しをしよう。