セララバアドにいってきた

有名どころではデンマークのnomaやスペインのエルブジみたいな「分子ガストロノミー」というジャンルの料理を提供するレストランがある。とにかく独創的な料理が人気で、予約が取れないということで有名になり、予約が取れないという事実でより多くの客を呼んでいる。エルブジに至っては50席しかない店内で、さらに一年の半年は休業しているというスケジュールもあり予約待ちは200万件に上るという異常さで知られている。エルブジは何年も前に閉店しているが、そこではボランティアでもいいから働きたいという料理人が山ほどいたという。そこで働いたという事実が圧倒的なステータスとして今後の料理人としてのキャリアに活きるのだろう。

あるとき菊池成孔の書いた食レポのようなものを読み代々木上原にセララバアドという分子ガストロノミーの店があると知る。前述の店で働いていたシェフが開いたお店なのだが、この食レポのようなものを見てもなにがなんだかさっぱりわからない。料理の解説はゼロである。こうなると自分で確かめてみたくてしかたなくなり、何度かオンライン予約サイトにアクセスしてたまたま見つけた枠に滑り込んでみた。私は全くもって美食家ではなく、わけのわからない国の謎の郷土料理を食べてうまいうまいと言うようなタイプである。なのでこの分子ガストロノミー体験も完全に情報を摂取するためのアクティビティという感じになってしまった。

来店した客が次回の予約を入れてしまうためなかなか予約できない店になったらしい

メニューがほぼ単語の羅列

どこがエディブルなのかわかりづらいが、生ハムが枝に巻いてあり、枝ごと食べられる

トペニ ワッカ。樹液らしい極めてかすかに言われてみればわかる程度のほのかな甘い味がする

フィトンチッド。杉の香りがする。可食部は下のクッキーのようなもの

パンとオリーブオイル。おいしい

春の高原。器もすごいが泡を食べるという体験もすごい

春霞 鮎魚女。けむりはあとから注ぎ込む

棚田 八海山サーモン 蕪。これはほぼ唯一のすぐにわかるおいしさだった

春の大地。見た目が良すぎる

筍 蛍烏賊。たけのこの皮を持ち上げると現れる

桜エビ うど 海藻。ここまで近くに来ていただけると庶民にも理解できる

ほろほろ鶏。これはうまい

もうメニュー表のどれに対応するのかわからないが、仏壇に供えるお菓子みたいだなと思った

お茶。一煎目の70度、2煎目の80度。お茶。

ガラスケースに砂糖が敷かれて龍安寺の石庭みたいになっている

美味しいかどうかで言えばもちろん美味しいが、私にはよくわからなかった。やたら取りづらい予約の手間を掛けて一人2〜3万円の食事となると、何度も食べたいかというと首肯しかねるし、たとえば同じ値段で焼肉に行った方が満足感は高いとしか思えない程度の舌の人間には過ぎたシロモノだった。しかし体験としては間違いなく非常におもしろかった。見たことない見た目の食べ物が見たことのないやりかたで提供される。煙の中に霞む焼き魚を食べる機会など人生で最初で最後だろう。体験としては、本当におもしろかった。