ルクセンブルクにいってきた

国民一人当たりのGDPが世界一高く、20年以上1位を維持しているという異様な国がある。それはアメリカでも中国でも日本でもなく、ヨーロッパの大体中心の地にあるルクセンブルクだ。もし日本に任天堂社員しか居なかったら一人当たりのGDPは300万ドルを超えてルクセンブルグを抜き去るが、そうではないのでルクセンブルクには負けてしまう。ルクセンブルクの面積は佐賀県ほど。四方をフランス、ドイツ、ベルギーに囲まれているこの国は、名前は知ってても行ったことがあるという人は少ないような気がする。せっかくなので行ってみることにした。

ルクセンブルクのフラッグキャリアLuxairにのる。ルクセンブルクを拠点に欧州各地を結んでいるが、ルクセンブルクに用がある人は少ないので保有機材の大半はやはり小型のプロペラ機だ。日本だと大阪と四国を結ぶ路線でよく見かける。機内は狭く、観光バスのような雰囲気がある。LCCではないのでアルコール飲料を含めたドリンクサービスや軽食サービスが提供される。快適だ。ドイツ西部やフランス東部、あるいはベルギーからであれば直通の鉄道もあるため、基本的にはそちらを使った方が本数も多く便利だと思う。とくにベルギーの首都ブリュッセルとは1時間に一本の頻度で特急列車が設定されており、3時間以内に到着できる。ベルギー旅行のついでに日帰りで観光することも可能だ。

夜の到着だったので空港近くのホテルを予約しておいた。チェックインした部屋の洗面台にはルクセンブルク国内の水道水は清潔で安全に飲めるという案内がある。すばらしい。実際のところヨーロッパの多くの国では(味は別として)水道水は普通に飲めるのだが、あらためてこのように書いてきてもらえると大変安心感がある。日本の水道水は全国どこでも安全に飲めるが、そうではない国のほうが多いので安全な水道水を提供しているということは我が国のホテルや空港の水道に堂々と明記していただけたらいいのになと思う。

翌朝、ホテル前の停留所から市街地に向かうときに乗るバスは無料だった。この国では公共交通が無料なのだ。エストニアのタリンなど、市民に対して交通が無料になる都市はみたことがあるが、観光客であろうとバスもトラムも電車も無料の国は初めて見た。すばらしい。ロンドンの初乗り1000円もするボロくて陰鬱な地下鉄も見習ってほしい。

街はフランスっぽいが、非常に清潔で落書きもない。パリの中心地のように観光客であふれるような混雑もしていない。どちらかと言えば地方都市のようなのどかさがある。洗練された街並みと静謐さに世界屈指の富裕国であるという雰囲気が立ちこめる。煉瓦色をしていないイギリス風建築のようなスレート葺きの屋根もその風景に良い影響を与えている。この旧市街は全体が世界遺産に認定されている。ヨーロッパの古都でありがちな「街全体が世界遺産」がここにもあった。

童話の世界のような古い建築もよく残っている。歩いているだけでとても楽しい。これらはすべて要塞の遺構だ。ペトリュス渓谷の断崖をくりぬいて作られており、夏の間は要塞内部の見学もできる。

120年以上前に作られたのに未だにニューブリッジと呼ばれている橋がある。正式名称はアドルフ橋というのだが、この橋がルクセンブルクという国で最も重要で、国家のシンボルでもあるという。美しいアーチの石橋が新市街と旧市街を結んでいる。ルクセンブルク市は渓谷に在する都市なので橋やケーブルカーやエレベーターがいたるところに設置されている。もちろんすべて無料で利用できる上に景色も良いのでどんどん使ってまわろう。

白いオブジェを白いビルの前に置くと見づらい

GDP世界一といってもたとえばドバイやドーハのようなレンティア国家に見えるアラビアンリゾートの感じもしないし、あるいはモナコのようにハイブランドのお店や高級ホテルが建ち並び高級車がごろごろ転がっているような様子はない。実のところその実態は労働者の半分が隣国フランス、ベルギー、ドイツからのコミューターで構成されており、1人当たりGDPはGDP総額を国の人口数で割って求めるという仕組み上、越境労働者が分母に含まれないということが影響しているようだ。

夜の旧市街では街路樹がウクライナの国旗の色でライトアップされていた。ウクライナ国旗の掲揚や建物のライトアップはいろいろなところで実施されているが、街路樹をつかったものは初めて見た。なかなか手間が掛かっておりすばらしい。

良い旅だった。