アンドラ公国にいってきた
フランスとスペインの国土を分かつピレネー山脈、その山間に金沢市ほどの大きさの独立国がある。アンドラ公国という名前のその国は、空港もなく、鉄道もなく、フランスかスペインの街から1日に数本の高速バスでのみアクセスできるミニ国家だ。フランスもスペインも何度も行っているが、アンドラはまだ行ったことがなかった。アンドラ以外のEU諸国はすべて行ったことがあったので、なんとなく行ったことのある国二つに挟まれたこの謎の小国が喉につかえた小骨のようにずっと気になっていた。ちょうどヨーロッパに滞在していたので良い機会だとおもい行ってみることにした。当然ながらアクセスは悪く、もっとも近い大都市はバルセロナだが、そこからさらに高速バスで3時間かかる。これでも高速道路が敷設される前に比べればだいぶ改善されたらしい。
アンドラ行きのバスはバルセロナ市街とバルセロナ空港の2箇所から2時間に一回くらいの頻度で出ており、どのバス会社を使おうが安くはなく、だいたい片道33ユーロ(4400円)もする。往復で買うと多少安くなり、さらにバス会社によっては学割があるものの、わたしは学生ではなく、かつ利用者が減っていて思い切り減便されている昨今では別の会社を組み合わせて予約するしかなく、結局プロパーのチケットを片道ずつ買うことになってしまった。数ユーロで乗れるヨーロッパの高速バスの相場からすれば非常に高いが仕方がない。これしかルートはないのだ。
バルセロナ空港からアンドラ行きの高速バスに乗る。空港から乗った乗客は私をいれて2名。途中のバス停で乗り込んだ客を入れても5人ほどしかいない乗客を乗せてバスはアンドラへ向かってひた走る。確かに5人しか乗らないバスを運行するのは赤字だろう。減便するわけだ。
バルセロナを一直線に北上できるわけではなく、2都市間を結ぶ高速道路網の都合上、西に向かってから北上するため遠回りでもある。気軽に行ける町とは言いがたい。それでも座っていればいつか着くのは事実なのでのんびり車窓を眺めて楽しもう。
アンドラはEUの国でもなければシェンゲン圏でもない。しかし隣国フランスとスペインとの間に出入国審査撤廃の合意があるため、隣接国の国民以外であってもノーチェックで入国できる。国境には入国審査場はあるものの、素通りするだけでとくになにかをすることもない。謎の施設だ。自己申告による関税の納付とかをする人はいるのかもしれない。
長距離バスは全て街のはずれにあるナショナルバスターミナルに到着する。きれいで近代的な建物で、なかには無料で清潔なトイレもあるが、バスターミナルにありがちなキオスクやカフェなどは無くかなりこざっぱりとした施設だ。コインロッカーがターミナルのすぐ外に各種サイズ用意されているので日帰り観光にも便利。それらはユーロコインで利用できる。
バスターミナルの下を川が通っており、その川沿いには満開の桜並木がある。本物の桜で、日本より少し早く咲くようだ。スペインと同じようにこのアンドラ公国も既にサクラが満開になるような暖かな気候なのだ。スペイン語を話す老夫婦からサクラを背景に写真を撮ってくれと頼まれた。もちろんいいですよと言ってカメラを受け取る。私が口にする「はーい、ウノ、ドス、トレス!」という声と全く関係なくずっと撮影ボタンを連打してやる。こういうのはたくさん撮っておけばいいのだ。あとは勝手に良いヤツを選んでくれる。フィルムカメラでこの撮り方はできないな。
アンドラの中心地を歩く。この街自体はそれほど特色や観光名所があるわけではない。とはいえアンドラっぽい景色だと思える場所はそこここにあり、日本の温泉地に近しい風景を至るところで見かけることはできるので、日本人ならアッと思える景色に出会えると思う。
おなかがすいたのでどこかレストランに入ろうとしたが、近年の流行病のせいかどのレストランも午後7時半までフードメニューを出せないという。コーヒーやビールは出してもらえるようだが、それだけ飲んでもなぁと思って諦めた。よくわからないルールだ。仕方ないので歩いていて見つけたかわいいパン屋でしゃれた菓子パンを三つ買って食べ歩いた。三つで3ユーロ。
サルバトール・ダリの彫刻が置かれている。カタルーニャ出身の彼からこの街に寄贈されたらしい。この橋と彫刻のある場所がアンドラの最も著名な観光地だ。記念写真を撮る人も多い。
アンドラは市街地だけなら3~4時間あれば十分回れる。バルセロナに数日滞在するのなら(そして往復6時間かかるのを許容できるなら)日帰りで向かってもいいかもしれない。あるいはフランスのトゥールーズ方面に抜けるルートもある。バルセロナもトゥールーズも観光名所が豊富な都市だし両市はアンドラを通らないもっと効率のいいルートで結ばれている。なのであえてアンドラまで行くのは結構とがっているような気がする。人とちょっと違う旅をしてみたいなと思ったら行ってみるといいんじゃないかなと思った。
良い旅だった。