機内食をフルーツセットに変更している
私は旅行が好きなので飛行機に乗る機会が多い。鉄道に比べて空港までの移動や保安検査の手間、予約変更の不便さ、乗り逃したときのリカバリーのきかなさなど、移動手段としてのデメリットを挙げればきりがないのだが、それでも国をいくつもまたぐような長距離移動を現実的な時間と費用ですませたいのなら西暦2022年現在の科学技術だと飛行機以外の選択肢は無い。
多くの国の大都市圏の空港では、大抵「空港ラウンジ」というものがセキュリティゲートを通った先に設置されている。航空会社の上級会員だったり、あるいは一回あたりいくらというお金を支払ったりすると使える特別な待合室だ。ブッフェスタイルの食事やアルコールドリンクが提供されていたり、空港によっては清潔なシャワーや仮眠室が用意されていたりもする。空港ラウンジが使い放題になる会員制度やクレジットカードの付帯特典なんかもあるので、そういったものをうまく活用できればやたら高い空港のレストランや売店を使わずに済んだり登録不要のWi-Fiを使えたりと、非常に便利なものだ。
ところでこの空港ラウンジで食事がとれる場合、その後の機内食が満腹でぜんぜん食べられないということがずっといやだった。飛行機のギャレーというごく限られた設備で用意される温めるだけの機内食にくらべれば、地上のキッチンで調理された食事のほうが上等なものになるのは当然だし、メニューも多彩だったりする。ファーストクラスだと機内で食べる食事のほうが豪華であることも多いが、普通にエコノミークラスに乗るときは機内食が全然うれしくないのだ。かといって出された食事に手を付けずに返すのは私の価値観に反する。私は出されたものは残さず食べるのがマナーだと信じているので、あまりおなかが空いていなくても半ば無理矢理食べて長いフライトの間中後悔するということがあった。なので最近は事前に機内食のメニューを変更するようにしている。
フラッグキャリアなら大抵公式サイトから機内食のメニューを確認することができ、アレルギーや宗教上の理由で選択される各種ルールに基づいたメニューを選択できるようになっている(参考: 日本航空)。イスラム教徒向けに豚肉を避けたメニュー、ヒンズー教徒向けに牛肉を避けたメニュー、ベジタリアン向けに玉子や乳製品以外の動物性タンパク質が含まれないメニュー、ヴィーガン向けに動物由来の食品が一切使われていないメニューなどが多彩に用意されている。 低塩分だったり低糖質だったり低カロリーだったりといったメニューも豊富なので、宗教上の理由以外にも、単に健康を気にしているだけであっても検討に値すると思う。
で、このメニューの中でもっともストイックであろう選択肢が「フルーツのみ」というものだ。果実食主義という菜食主義の中でもかなり極端な思想で、地に落ちた果実のみを食す、つまり動植物全体を殺す行為に基づかないというメニューが用意されている。これを選んでみたところ、デザートにちょうどいいじゃんと思えるくらいのカットフルーツが目の前にやってきた。
とてもちょうどいい。もう完っっ全にちょうどいい。これがほしかった。さっきラウンジでカレーかなんかを食べたばかりの胃袋には、そんなに時間も経ってないうちに自動的に運ばれるラザニアはオーバーキルなのだ。普通の機内食のままではカロリーだって一回のフライトで3400kCalも摂取しているらしい。いや、まぁ地上でたくさん食べていたらカロリーの総量は変わらないかもしれないが、しかしあえて機内食でビッグマック6個分を超えるカロリーをじっと座ったまま摂取しているのだと意識すると、さすがにそれは抵抗があるのではないだろうか。
私は好き嫌いもなく、食に対する強い思想もない。肉よりは魚が好きだけど、野菜も好きだな、というごく一般的な雑食のホモサピエンスだが、これからは機内ではフルータリアンになってみようかなと思う。
まぁ機内で好きなものを好きなタイミングで食べられるビジネスクラスやファーストクラスに毎回乗りなさいといえばその通りである。