ヴィクトリアの滝にいってきた
私は滝を見るのが好きで、イグアスの滝やナイアガラの滝のような国内外の名の知れている滝を見て回っている。アフリカ南部に滞在していたので、せっかくの機会だと思い「世界三大」との呼び声も高いヴィクトリアの滝を見に行くことにした。
ヴィクトリアの滝はザンビアとジンバブエの国境を流れるザンベジ川の途中にある。ザンビア側の都市リビングストン市とジンバブエ側のヴィクトリアフォールズ町がそれぞれ最寄りの観光拠点になっていて、両国ともに滝を中心にした観光開発にいそしんでいる。とりわけハイパーインフレーションによって経済が破綻してしまったという悪名くらいでしか知られていないジンバブエの田舎町にとって重要な外貨の獲得元なのだ。というか、この町はもはや「重要」という言葉でかたづけられないくらい観光客の落としていく外貨に依存した経済になっており、国家の破綻による影響も実のところほとんどなかったらしい。
ジンバブエへの入国にはビザが求められる。通常事前に取得する必要はなく入国審査時にアライバルビザを発給してもらう流れになっており、日本人の場合、料金はシングルエントリーで25USドル。トランジットビザなどの設定はないので短時間の滞在であっても現金25ドルを支払う必要がある。10ドル札を3枚、30USドルを支払ったけどちゃんとおつりは返してもらえた。クレジットカードでの支払いには対応しておらず、さらに周囲にはATMや両替所は見当たらなかったのでできる限りUSドルの現金を用意していくことをおすすめしたい。ビザの料金はUSドルで設定されているがユーロ紙幣で払っている人もいた。ちなみにこのビザ料金は申請者の国籍によって変わる。日本人もアメリカ人もフランス人も等しく30ドルだが、カナダ人に限ってはひときわ高く設定されており、ちょうど行列の目の前にいたのがカナダ人の高齢夫婦だったが、一人あたり75ドル、二人で150ドル支払わされていた。世界的に非常に人気の高い海外移住先であるカナダだが、私がカナダ国籍を持っていなくてよかったなと思う。
空港から街までは一本道とはいえ歩ける距離ではないので、事前にViatorなどでシャトルバスを予約しておくと安価に移動ができる。10ドルほどで町の好きな場所で停めてもらえるし、ホテルをとっているならばそのホテルの名前を言えばエントランス前に下ろしてくれる。町は大して広くないので目的地がどこであれ運賃は定額だ。この町には格安のドミトリーから一泊10万円を超える高級ホテルまで豊富にそろっている。好きなところに泊まろう。
ヴィクトリアの滝
ヴィクトリアフォールズ町の北東部から延びる幹線道路を15分ほどあるくとVictoria Falls National Parkの入り口にたどり着く。ぼんやり歩いていると観光客相手の土産物売りたちがひっきりなしに声を掛けてくる。適当にあしらえばしつこくついてくることはない。アフリカの国々ではアジア人に対して「ニーハオ」と声かけられることも多いが、この町では「コニーチワ」と声かけられることが大半だった。ほかのアフリカ諸国のようにインフラ開発のため滞在する中国人よりも、あるいは観光で遊びにやってくる日本人が多いのだろう。
受付で入場券を購入する。外国人向けの料金は50ドル。南部アフリカの市民であれば30ドル、ジンバブエ人なら7ドルに設定されている。正直ここまで格差があるとあまり気持ちのいいものではないが、そうは言っても支払わないと滝は拝めないのだ。イグアスの滝だって外国人料金だけは高かった。円安のいま、50ドルというのは7000円を超える。ただ水がヒュウと落っこちるのを見るだけで7000円とは、実にけしからんことである。
園内はかなり広い。観光時間としても1時間やそこらではまったく足りないので、それなりに歩く距離も長いし水分補給を欠かさないようにしよう。飲み物は園内でも購入できる。整備された遊歩道をのんびり歩いて行けば、ゴォォという音が遠くからきこえてくる。滝はもう近い。
公園内の木々を抜けると視界は一気に開ける。そこには巨大な崖と轟音を立てて流れ落ちる大きな滝があった。滝壺までは110メートル。横幅も非常に大きく、いくつもの滝がつらなって巨大な自然の造形美を作り出している。細い谷底へ向かって空気を巻き込みながら流れる膨大な水のおかげで周囲は常に強い風が吹いており、そのしぶきで服もバッグもじっとりと濡れる。
ヴィクトリアの滝は現地語でMosi-oa-Tunyaとよばれている。雷鳴のする水煙という意味らしい。山火事かと思うようなその水煙は、通常時でも高さ400メートル、増水時には800メートルまで立ち上るという。上からも下からも雨が降っている状態だ。周囲は非常に滑りやすいので転ばないように気をつけよう。
地形の構造上、対岸のザンビア側からは滝の全景を見ることはできない。しかし滝の水に直接浸かることができる天然のプールがあり、水着の観光客が滝の上から手を振っている。わたしも大きく振り返した。そのプールのある場所をよく見ると写真を撮るために滝の淵ギリギリの場所に立っている人がいる。この滝では落下による死亡事故も起こっているらしいので、見ているだけでもかなり肝を冷やす光景だった。このザンビア側から入る場合の滝の入場料は20ドルになっており、ジンバブエ側よりも安く設定されている。体力があれば一日でどっちも見て回ることもできるし、節約するならザンビア側だけ入場するというのもアリだと思う。
ヴィクトリアの滝はイグアスの滝と並んで世界最大の滝であり、ナイアガラの滝でさえこれらの滝と比べるとかなり小規模なものになる。巨大滝巡礼の旅は、三つを回りきったことでいちおう終わりとなった。とはいえ世界には無数の滝があり、まだまだ見るべきもので溢れている。この星のエンターテイメント性の高さは計り知れない。次は「アフリカ第2の滝」と言われるアンゴラのカランドゥーラの滝を目指してみたい。