The Red Flatでブルガリア共産主義時代の市民生活を知ろう!
私はブルガリアという国が好きで、ヨーロッパに行く機会があるととくに用がなくてもなんとなく立ち寄ってしまう。とくに首都ソフィアの居心地の良さはこれまで見てきた国々のなかでも随一のものだと感じているし、行く度に新たな魅力を感じるすてきな場所だ(過去記事)。
1990年の東欧革命において民主化を成し遂げ国家の体制が急激に変化したこのブルガリア共和国には、それまでの45年の歴史に幕を下ろし消滅したブルガリア人民共和国という前身がある。主要な政策が事実上ソビエトにコントロールされていたことから、同国は典型的な衛星国として知られていた。
現在はEUの一員として民主主義を貫くブルガリア、その首都ソフィアの一角に共産主義時代における平均的ブルガリア人家庭の暮らしを再現したアパートがある。The Red Flatというその観光スポット、これまでのところブルガリアに旅行へ行った人はいてもこの場所がSNSやブログ記事などで言及される様子は見たことがない。世界遺産や歴史ある聖堂、著名な遺跡にあふれるこの街での観光にまっさきにあがるスポットではないにしても、なかなかおもしろいので紹介したい。
よくある博物館のように受付があるわけではなく、街中のお土産屋さんのような場所で入場料を支払い、住所と部屋番号のメモを受け取って徒歩数分の位置にある普通の住宅に自ら歩いて行く。目的地は住民もいる普通の素朴なアパートだ。訪れた部屋には知らない人の暮らしが生々しく詰め込まれている。はやりのイマーシブ体験だ。
演出のためかどうかはわからないが、本棚にはあまりにも赤くてウケてしまう本ばかりが並んでいる。当時のブルガリアにおけるレーニンの評価が垣間見えるような気がする。現代ブルガリアでのレーニン像は、労働者の権利向上や社会保障を目指した共産主義の父としてそれなりに評価している世代と、独裁や弾圧の象徴として見ている若い世代でかなり異なっている。若いブルガリア人はここにきて「祖父母の家に来たみたい」とこぼしていた。
キリル文字のタイプライターは実際に文字を打つこともできる。たまに街中のフリーマーケットで見かけるが、ちゃんと動くきれいな品は貴重なものだろう。
海外旅行で一般的に行くような遺跡とか現代的な美術館/博物館とか大自然とか、そういったものとは大きく異なる展示が楽しめる。無料で貸し出されるオーディオガイドをすべて聞いても1時間ほどだろうか。入場料もあまり安くないし展示を楽しめるかどうかは人を選ぶかもしれないが、個人的には非常に興味深く見学できた。もし同国に行く機会があれば、冷戦時代のブルガリアの日常へタイムスリップしてみてはいかがだろう。