Kinesis mWaveキーボードを買った
愛用していたMicrosoft Sculptキーボードが数年前に生産終了となり、さらに手元のSculptキーボードも壊れてしまったことで、しばらくまえにRealforceに乗り換えた。乗り換えたのだが、これが一向に快適に感じられない。Sculptキーボードの快適さはSculptキーボードでしか実現できないことを日々実感させられるだけで、いつまでたってもRealforceを微妙に愛することができないまま過ごしていた。打ち心地は間違いなくいいし、HHKBほど変な配列でもない。それでもやはり直線上に並んだキー配列は私には窮屈なのである。
Microsoftからライセンスと関連IPを取得して同じ商品を製造・販売する権利を得た会社があらわれたというニュースはあったものの、公式サイトの商品ページはComing soonになっていて実際には購入できない。単なる品切れなのか実際に製造をしているのかどうかも定かではない。
思い出のSculpt Keyboard; Photo: erocsid / CC BY 2.0
最近は分割キーボードもいろいろあるし(分割版Realforceまで販売開始した)自作キーボードも流行っている。ただ私は分割キーボードは個人的に好きではない。キーボードの快適な位置が動き続けてしまうことで、体が慣れる先が点で無くなっていると思っているからだ。今日慣れた配置が翌日物理的に右側だけ1cm横にずれ幅広になっているとか、テンティングの角度が広くなってるとか、そうなってほしくない。身体が慣れた先には快適な状態が一点で待っていて欲しいのだ。身体が学習できる唯一の正解位置があってほしい。そうすれば体はそこに向かって慣れを収束させることができる。その収束先候補として使っていたHHKBやRealforceでは窮屈で、私にはSculptのレイアウトが最適だったのである。キーボードの自作もその供給の不安定さを考えるとどうしても手が出なかった。ある程度メジャーなメーカーから発売されていてほしいし、そもそもSculptのように扇状にキーが広がっていて中央部が盛り上がっているケーシングは見つけられなかった。
そういうわけで、Sculptのようなデザインのキーボードを探す旅に出た。せっかくなのでSculptキーボードの持つ固定式エルゴノミックだけでなく、癖のないUS配列、Mac配列、白という条件を追加して探してみると、2つほど候補があがる。両方買って試してみることにした。
Matias Sculpted Ergonomic Keyboard
最初に買ったのはカナダのMatias社によるキーボードで、商品名からもその紹介文からも明確にMS Sculptキーボードの後継を目指している商品だ。国際配送に対応しているアメリカの電気量販店B&Hでは113ドルほどで、送料はDHLで56ドル。注文したら横浜の自宅まで4日ほどで到着した。かなり速い。

箱には"The best wireless Mac option for fans of the original Microsoft Sculpt"とある。これこそがSculptキーボードのファンが追い求めていただろうプロダクトだ。


Redditにも購入者の感想がある。それによると初期ロットにはチャタリングの不具合があったらしい。私の購入したものにそのような不具合はなく、しばらく使ってみても動作に問題を感じることはなかった。思い出の中のMS Sculptの打ち心地ともほとんど変わらない。これがMS Sculptに現状最も近い商品であることは間違いないだろう。オリジナルは黒一色、Windows配列、パームレストに跡がつくというところが私の気になるところであったが、Matiasは黒いWindows配列と白いMac配列の両方が用意されていて、パームレストもスエードのような素材でさわり心地がいい。MS Sculptの正統派後継機だ。
Kinesis mWave Keyboard
有名な高級キーボードメーカーのKinesisも固定式エルゴノミックキーボード(という名称が正しいかはよくわからない)を出している。Sculptに酷似したデザインというわけではないが、公式サイトには"Familiar sculpt shape"とか"If you’re a fan of the discontinued Sculpt keyboard or shopping for your first ergonomic keyboard, you are going to love the mWave."と書かれており、MS Sculptキーボードを強く意識した商品であることは明白だ。
この商品は公式サイトでも売られているがアメリカ国外への送料は都度見積もりとなり、その上100ドルほどという目安が書かれている。さすがに送料15000円というのはいくらなんでもありえない金額だ。ほかの販売店を探してみるが、アメリカ国内以外への発送に対応したショップは見つけられなかった。仕方ないので日本への転送を請け負う業者を別途利用し、アメリカの販売店から転送業者へ、転送業者から横浜の自宅へと、やや手間のかかる購入となった。私は販売業者としてアメリカ国内への配送が無料だったErgo Works Inc.を、アメリカからの転送にはMyUSを使った。本体価格119ドルに送料が37ドル。注文から到着までは二週間ほどかかった。
「7」のキーがとれてたが、すぐ付け直せた
mWaveの打ち心地はMatiasに比べて明らかによい。MS Sculptはキー配列は本当に素晴らしいが、薄手のパンタグラフ式で打鍵感はそれほど好みではなかった。MatiasはSculptに非常に似せて作られていて、打鍵感もSculptとほとんど変わらない。一方mWaveはメカニカル式で、茶軸(キースイッチの種類)特有のタクタイル感があって入力に楽しさがある。
ただ、個人的にはパームレストの素材はMatiasの方がいいと思う。mWaveのパームレストは低反発枕のような素材感で、テクスチャも薄手のゴムのような感触があり、これはこれで気持ちいいとは思うものの、手のひらが少し沈み込んで密着するため正直暑いのだ。手汗をかく体質ではないのでそれによってべとつくとかの問題があるわけではないが、通気性をよくするためにタオルを敷いておきたくなる。

また、Gateron社製のロープロファイル茶軸スイッチが使われていて、入力音はHHKBやRealforceに比べるとカチャカチャと賑やかだ。自宅で使うなら問題ないが、人が多いオフィスだと気にする人もいるかもしれない。赤軸をつかったサイレントモデルもあるので、気になる人はそちらを選ぼう。
サイズもデザインもほとんど同じ
mWaveは送料と合わせて156ドルほど、Matiasが送料と合わせて170ドルほどだったので、mWaveのほうが転送料金を含めてもやや安いかな、というくらいでそこまで大きくはかわらない。MS Sculptキーボードとぴったり同じものが新しく欲しいのであればMatiasを、Sculptのレイアウトが好きで、そこからさらに入力している感を追加で味わいたいならmWaveがいいと思う。私は両者を試した上で、メインの用途にはmWaveを使うことにした。
SculptのDNA
Microsoft Sculptキーボードは失われてしまったが、その圧倒的な完成度は忘れがたい。発売終了後にIncase、Matias、KinesisがそのDNAを継承し、オリジナルにできるだけ似せて作られた商品や、細かいアップデートを施した商品、さらに思想だけ引き継いでより現代的にリメイクされた商品が(細々とではあるが)いまも登場している。これだけでもSculptがいかに愛されていた製品だったか伝わってくる。

ところでSculptキーボードを使ってるという人を、私は自分以外に実際に見たことはない。しかし検索してみるとわずかながら観測できる。
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検索して出てきたのはこれらの方々で、HHKBやRealforceのような定番キーボードに比肩する普及状態とはまったくいえないが、使われていないともいえないくらいの需要に見える。Googleのエンジニアも使ってるならもうちょっと人気が出てもいいはずだけど、定番キーボードとして今後定着するとも思えない。Kinesis mWaveキーボードに至っては検索しても一人も利用者を見つけることができなかった。となると残る心配はまた生産終了によって入手できなくなってしまうことだ。Kinesisのキーボードがすぐにへたるとは思わないが、しかし2〜3台備蓄しておくほかなさそうだ。同じKinesis社のキーボードには10万円を超えるものもある。それに比べればmWaveの2.4万円はだいぶリーズナブルな気がしてきた。心の安寧と布教のために、しばらく使ってみて不満がなければ追加で買い足しておこう。