ギリシャ・パトラにいってきた

いつものように日の出と同じくらいの時間に目が覚める。さて今日はどうしようかと考えながら蜂蜜まみれのトーストを食べた。このホテルにも山盛りのオリーブが出されている。ギリシャの朝食ビュッフェはきっとこうなのだろう。

ノートPCで地図を見ながらどこに行こうか考えた。ギリシャの近くにある国はイタリアとかアルバニアがある。アルバニアは情報がなさすぎるので是非行ってみたい。でもイタリアはどうしよう。実のところすでに何度か行っているけど、あの国には訪れるべき都市が散在しており、結局のところミラノやヴェネツィアだけしか行ってない。ローマやヴァチカン、サンマリノにも行ってないし南イタリアの温暖な地域にも行きたい。

パトラからフェリーで行けるイタリアの都市としてはバーリがあり、そこからほど近い場所にアルベロベッロという地域がある。テレビや雑誌でも頻繁に取り上げられるアルベロベッロは、石灰岩でつくられた円錐形の屋根をもつ家が密集した不思議な場所で、世界遺産にもなっており観光客はとてもおおい。ローマからも離れていてアクセスは悪い(最寄りの都市はバーリだけどバーリに用事のある観光客などいない)が、うまくやればギリシャやアルバニアへの旅行と組み合わせて楽しめそうだ。

その場でフェリーのチケットを2つ購入する。パトラからイタリアのバーリ、バーリからアルバニアのデュレスまで行くルートが決まった。行き当たりばったりだ。

電子チケットの控えを見ると、16時にフェリーへチェックインしなくてはならないとある。それまでの時間でパトラを堪能できる観光地を探す。すると強く心引かれるものが二つ見つかった。今日も楽しくなりそうだ。

パトラ要塞

朝食を終え、まだ朝も早いがホテルをチェックアウトする。まだ薄暗く寒いパトラの街に出て、昨日と同じように長い階段をのぼって街の高台に再訪した。パトラ要塞はそんな街を見下ろせる場所にある。

ワンダと巨像というゲームがある。主人公が外界から隔絶された世界、荒涼とした大地と石造りの遺跡がならぶ幻想的な風景の中を愛馬アグロと駆け巡り、敵である巨像を倒していくというゲームだ。それを思い出した。

風はなく、朝日が照らしてあたたかい。とくに順路があるわけでもなく、柵で区切られているわけでもない。好き勝手にうろついていいのも気楽だ。個人的にはパルテノン神殿よりもパトラ要塞のほうが好きだ。機能美だろうか、趣深いのはこちらだと思う。

世界最大の斜張橋

パトラ郊外の街リオと、ギリシャ本土の街アンティリオを結ぶ巨大な斜張橋がある。100年以上前からギリシャ人が夢見ていた全長3km近い橋は、コリンス湾によって分断された経済圏を結ぶ重要な交通結節点となっているらしい。調べてみるとその橋の近くまでバスでいけるようだ。次はここに向かってみよう。バスのチケットは街のキオスクで買える。学生用の半額チケットを往復分かった。ついでにリオ行きのバス停も店員さんに聞いておく。バス停は意外なほど目立たない。

バス停には時刻表がない。どれくらいのペースで運行しているのかはわからないが、巡回路線なら15分も待てば来るだろうと予想した。その予想は的中し、10分ほどで恐ろしくボロいバスがやってきた。

バスに乗り込み、さっき買った切符を打刻機に通す。適当なシートに座って車内を見回すと、すべての表記がドイツ語であることに気がついた。ドイツで走っていた路線バスの中古車なのだろう。ヨーロッパの中でもやはりこういった経済格差が浮き彫りとなっている。

10kmほど走っただろうか。名前もなにも表記がないバス停で降りてみた。地図を確認すると、ここはパトラ大学の一部らしい。遠くに例の橋が見える。まだまだ距離がありそうだしかなり曇っているが、海岸方向へ歩いてみる。

途中のスーパーで缶ビールを買う。橋がよく見える場所で飲みたかった。

数十分歩き続け、やっと橋が一望できる海岸に着いた。夏なら人であふれそうな美しいビーチに腰を下ろし、ビールを飲んだ。気づけば空は晴れてとてもあたたかい。周りに人はいない。青い空、透き通った海、白い橋梁を独り占めしている気分だ。たくさんあるいてきてよかった。これはパトラで一番の思い出になる。

ネットで調べてみると、この橋は歩いて渡れるらしい。橋のふもとに近づいてみると、目立たないがたしかに鉄製の階段がついている。本当にのぼれた。

青空に白いワイヤーがよく映える。

橋は十分堪能できた。すばらしい体験だった。腕時計をみると、フェリーの出港まであと2時間ほどだ。帰りのバス停の場所もわからないので、そろそろ来た道を戻る。

イタリア・バーリへむかう

今朝予約したイタリア行きのフェリーに乗るために港へ向かう。ここでトラップがあるのだが、実は街の中心地であるパトラ駅の目の前のパトラ港からバーリ行きのフェリーは出ないのだ。パトラ港からさらに南に4キロほど離れたNew Portと呼ばれる別の港から出港する。パトラ港にもバーリ行きと同じ会社が運行している同じデザインのフェリーが停泊しているため、非常にまぎらわしい。また、ネットでチケットを購入した場合には、メールで送られてくるチェックイン番号とパスワードをもって出港する港のチケットカウンターへ2時間以上まえに訪れてチェックインが必要になる。慣れない土地で迷子になってしまっては往復分のチケットが無駄になってしまうため、タクシーを使ってでも余裕をもって到着したい。

幸いギリシャのタクシーはマナーもよく安価であるため、パトラ市街地から港の待合室まで直接タクシーで向かった。出航時刻は18:00、チェックインの期限は16:00。私がカウンターに到着したのは15:58だった。多少すぎても時間にルーズなギリシャで冷たく断られることはないと思うが、心安らかな旅行からはほど遠い。

ギリシャもイタリアもシェンゲン協定の圏内なのでパスポートコントロールはすぐにおわる。荷物検査場にも誰もおらず、素通りしてフェリー乗り場に降りてきた。フェリーののり口まではかなり遠い。1キロくらいあるだろうか。さっきから降り出した雨の中、これを歩くのはちょっと面倒だなと思っていると、目の前にシャトルバスが現れた。「Bari?」と運転手に聞いてみると手で「乗れ」と指示してくる。乗車したのは私ひとりだけだが、乗るとバスの扉は即座に閉まり、バーリ行きのフェリー乗り口前まで運んでくれた。貨物トラックが縦横に走り回っている広大な空間を徒歩で移動するのは危ないし、これはとても安心した。無料で各フェリーの乗り場を巡回しているバスの存在はどこにも明記されていないため、もうすこしバスの到着が遅かったらきっと港湾地区の隅っこを遠回りしながら歩いていってしまってたと思う。運がよかった。

出港の二時間近くまえということもあるのか、フェリーの中にはほとんど人がいなかった。キャビンなしの一番安いチケットを買ったものの、肘掛けのない席がならぶ映画館のような部屋に案内された。広い部屋だが案の定だれもいない。一番後ろの席に座り、4つの座席を占領したらジャケットを羽織って眠れそうだ。左手には電源をとれるコンセントもある。ノートPCとスマホを充電できる。船内にはちいさなバーもあり、そこで水のボトルを買った。十分快適だ。しばらくすると数名の旅行者がおなじ部屋に入ってきたが、やはり座席の多くはだれも座ることがなかった。

夜になると照明は落とされて部屋はうすぐらくなる。暖かいので寝心地は悪くない。疲れていたので21時まえには浅い眠りについていた。

目が覚めたのは23:00すぎ、気がつくとさっきまでガラガラだった船内に人が増えている。横になっているひとがすこし増えた程度だが、賑やかだ。私のすぐまえの席では3-4歳の女の子が騒いでる。ギリシャ語なのでわからない。もう遅い時間なので迷惑だなぁと思っていると、さらに一つ前の席に寝ていたおじさんがキレた。こちらもギリシャ語なので何を言っているのかはわからなかったが、まぁ間違いなく「今何時だと思ってるんだ!母親ならそのガキを黙らせろ!」とでも言っているに違いない。それから女の子はとても静かになった。

空腹に目覚め、買っておいた水を飲んで船内のお店でチョコレートを買った。せっかくならイタリアについてから普通のハンバーガーでもたべたい。どの国でも同じなのだが、フェリーの中で買う食べ物はやたら高いのだ。朝焼けで染まるイタリアの空ときれいな青い海をデッキから眺めてみると、すでにイタリア半島が遠くに見えていた。

「船はあと30分で到着します。ラウンジに集まってください」と5カ国語で放送があった。水のボトルをしまい、コートを着て到着をまつ。にわかにフェリー後方が騒がしくなり、乗客が下船していく。やはりあまり人は多くなかったようだ。

多くの人は自家用車を一緒にフェリーに乗せて、そのまま車で移動するみたい。街までの交通手段をもたない人は、私を含めてせいぜい5人といったところだろうか。なにはともあれ海路でイタリアに入国できた。

つづく