九州北部にいってきた 4 (唐津)

唐津へ向かう

ユーリ!!! on ICEというアニメがある。男子フィギュアスケートの物語で、モテキとかを描いている久保ミツロウ先生の最新作だ。私はこのアニメが好きで、毎週の放送を楽しみにしていた。そのアニメの中では主人公の勝生勇利は佐賀の長谷津(唐津をモデルにした架空の街)出身で、実家が温泉旅館を営んでいるという設定だった。いまでは街もユーリ熱で盛り上がっており、聖地巡礼マップなるロケハンに使われた場所を実際に見て回るための地図まで制作されているのだ。これはもう行ってみるしかない。

佐賀駅で日本酒と焼酎を併せて3本買う。飛行機に持ち込むめんどくささを考え、売店のおばちゃんに京都までの宅配を申し込んだ。たかだか数百円で旅行中の重たい荷物からも解放されるし安全に自宅まで運んでくれるのはありがたい。あとで自宅と職場で飲んで知ることだが、佐賀のお酒はそれほど知られてないものの間違いなくおいしい。芋焼酎「魔界への誘い」は2本買って正解だった。

本数がそれほど多くない唐津線で片道1080円。最後の青春18きっぷ使用分をここでつかうことにする。今日の移動経路を適当に計画してみると、今日一日でおよそ4000円分くらいつかう。佐賀から唐津、唐津から博多、関空から京都。いいレートだ。

車内は静かで乗客も少ない。まだ朝早いのだ。今日一日を遊びきるためのスタートとして申し分ない。

唐津城に向かう

唐津駅に到着する。改札を出てすぐのところに観光案内所があり、観光マップを無料で配布していた。半日で回れるルートや車がある場合のルートなど、いくつかの定番コースを紹介している。ちょうど車なしの半日コースもあるので、自分にぴったりなそのルートを選択して観光してみることにした。マップの他にも割引券が山ほどついたパンフレットも一緒に持たせてくれたほか、アニメの再放送情報も教えてくれる。私が佐賀での放送を見ることはかなわないが。

さて出発しようか、とおもったころ、困ったことにかなり強い雨が降ってきた。土砂降りだ。他の観光客も所在なげに駅のなかをうろうろしている。しばらく待ってもやむ気配がないので諦めてコンビニでビニール傘を買った。そもそもコンビニの傘って高いし、家には山ほどビニ傘があるし、雨がやんだらひたすら邪魔になるし、さしたところでこんなに強い雨じゃ足はビショビショになるだろうという気持ちになっているわけで、この商品を買うのはそれなりに抵抗がある。とはいえせっかく唐津まできて駅だけみて帰宅なんて悲しすぎる。バスで回る方法があるかもしれないが、それぞれのバスがどこに向かうのかもよくわからない。あきらめてビニ傘を片手に土砂降りの唐津をあるいてみることにした。

唐津の観光地として最も知られたものの一つが唐津城だろう。唐津駅からも歩ける距離にある。せっかくなので天守閣まで上ってみようと近づいていくと、唐津市内が一望できる公園があった。作品中にもでてくる名所だが、いかんせん雨で景色は白んでいる。地面もどろどろでサンダル履きの自分にはきびしい。

さすがにこの雨の中観光する人はすくなく、この公園もお城もいくぶんひっそりとしている。とはいえお城内部の博物館は営業しているので入場券を購入し、刀剣や甲冑、唐津城の歴史にまつわる展示を見ながら上の階へ上っていく。そしてついに天守閣にたどりついた。

眺望は間違いなくすばらしい。すこし離れているが特別景勝として知られる虹の松原も見えるし、これから渡ろうと思っていた舞鶴橋もよく見える。

雨は弱まってきた。舞鶴橋をわたり東唐津駅へ向かう。東唐津駅から一駅のところにある虹ノ松原駅で下車し、次の目的地鏡山温泉へ行くことにした。

鏡山温泉

虹ノ松原駅から歩いて15分ほどのところにモデルとなった温泉施設がある。実際は旅館ではないが、建物のかたちや食堂で提供されている料理は作品中で大いに参考にされており、いまではたくさんのファンが訪れる観光名所になった。かわいい女子がたくさんでるアニメではなく、かっこいい男子が活躍するアニメなので(男子フィギュアスケートだし)、アニメの聖地巡礼を目的に唐津にくる人はほとんどが女性だ。というかこの街で男性のアニメファンはひとりも見かけなかった。私だけなのかもしれない。そんなことを思いながら雨あがりのぬれた道を歩いて行く。途中道ばたにかわいらしい看板を見つけた。

「XXのYY屋さん」というネーミングを聞くと、ついオウムのお弁当屋さんを思い出してしまう。とはいえこちらはれっきとした有名店らしく、県内外にファンにもファンが多いという。行っておきたかったなぁ。

さらにしばらく歩くと、ついに着いた。勝生勇利選手のご実家だ。

ちょうどお盆休みなこともあって、なかは結構こんでいる。親子づれと女性のアニメファンが多いみたいだ。唐津駅の観光案内所で鏡山温泉の割引券をもらっていたことを思い出し、その券と500円を受付で渡してタオルを借りる。店内には原作者のサインやコスプレ衣装というのかな、主人公の着ていた服と同じものが飾られていたりする。

多くの女性が入れない男湯に入る。まぁたぶんそんなにかわらないんだと思うけどね。お風呂は露天風呂もある。天然温泉だ。汗と雨で濡れた体を温めてくれる。最高に気分がいい。

原作中で何度も表現される重要なモチーフとしてカツ丼がある。主人公の好物でもあり、この鏡山温泉の食堂でも飛ぶように売れている。事実、私がこれを食べているあいだじゅうひっきりなしに注文されていた。多くは女性の観光客だ。ちょうど昼時だし私も注文してみた。

出てくるまでかなり時間がかかったものの、カツ丼の味はすごい。これはほんとうにおいしかった。匂いも味も最高。そりゃ勇利選手の好物にもなろうというものだ。

虹ノ松原

温泉施設を後にし、駅へ戻る。しかしせっかく虹ノ松原駅で乗降するのだからこれは虹ノ松原も行くべきだろう。迷うことなく道路もなにもない松林の間をぬけて海岸へ出た。

これがもう完璧にひとっこひとりいない。私がいく旅行先は誰も居ないことが多いんだけど、その中でも輪をかけて誰も居ない。波の音と風の音だけが聞こえる。生命の息吹みたいなものがなにもない。民家もないし船もいない。海岸は清潔でゴミ一つ落ちてない。人工的に作られたものが何一つ目に入らない。この世界に自分しかいなくなったのかと思うほど人影がない。すごい空間に立っている気分になる。不思議な気持ちだった。

虹ノ松原駅にもどり到着した列車に乗り込む。驚くべきことに、ここに止まる列車はすべて福岡市営地下鉄と直結して博多へ、さらに終点の福岡空港まで直結している。駅の数は多いしそれなりに距離があるので80分ほどかかるが、空いた電車に座ってるだけで空港まで着くのは快適そのもの。居眠りしてたら終点だった。そして朝コンビニで買ったビニ傘を車内に忘れた。

ゴーイング バック トゥ 関西

虹ノ松原駅から乗ってきたJR線は福岡市営地下鉄の空港線と直通で乗り入れているため、そのまま終点まで到着してしまう。もちろん地下鉄は青春18きっぷの対象外なので改札で乗り越し分を精算する。

初めて福岡空港にきた。日本の主要空港としては大変珍しい、というか世界的にみても希少な市街地から地下鉄ですぐの距離にある便利な空港だ。ここから適当に関西へ帰る。行きは青春18きっぷで山陽本線、帰りは山陰本線で、なんて思っていたがさすがに厳しいものがある。山陽本線よりもさらに長い時間がかかるし、たぶん一日じゃ着かないだろう。文明の利器、というかお金というワイルドカードをつかって空をとぼう。柔軟な計画変更も大切なのだ。きっと。