ナウルのビザを取得するためには

この謎の国へ入国するための情報はとても少ない。なにしろ世界193ヶ国のなかでもっとも日本人観光客が少ない国なのだという。カリブ海に浮かぶ名も知らぬ小国よりも少ないのだ。在ナウル邦人はもちろんゼロ名で、具体的な日本人旅行者の数は知らないが、きっと年間数名というところなのだろう。

とはいえインターネットは便利なもので、過去に行ったことのある人の書いた記事なんかが見つかる。しかしその多くは非常に古い上にわかりにくく、この記事を書いている時点では私のビザ取得に役立たないものになっていた。ナウルに生涯で二回以上いく人もいないだろうし、それらの記事がアップデートされることもないと思う。なので私も現時点でのナウル滞在ビザ取得について記録しておくことにする。私が書くビザ取得までの記録もまた現時点での情報であることに留意されたい。

ナウルはどこにも大使館をもたないが、渡航者はビザが必須。しかしビザを取得できるのはナウル空港到着時だけ、なのに到着時に新規のアライバルビザ取得は認めていない。という変な制度下で運用されている。というわけで「事前にビザ取得のために必要な書類と手数料を送ってくれれば審査してビザの取得を認めるという旨の証明書を発行しメールで送るからそれを入国時に見せてくれればナウル空港でビザをあげよう」という奇天烈な方法をとる必要があるのだ。以下がその手順となる。

1. ナウル政府にビザを発行してほしい旨の電子メールを送る

まずメールを送る先としてナウル政府の公式サイトに掲載されているアドレスが不通になっている。メールサーバーが不調なのかなんなのか、どちらにせよ届かないため@naurugov.nrドメインのアドレスは宛先がどこであっても基本的に使用することができない。Webサーバーも不調で公式の情報が入手しづらい。しかしこのアドレスはGmailにforwardされているだけのようなので、政府の業務担当者Rajeev氏のアドレスである[email protected]宛てに直接メールしよう。Gmailなら不通となることもなくちゃんと届く。しばらくすると必要書類の一覧とWordファイルの申請書を送り返してくるので、それに従って書面を用意しよう。ちなみに要求される資料は以下の通りだ。

  • 記入済みの申請書
  • パスポートの写真欄
  • 英文の雇用証明書
  • ナウルでの滞在場所の予約を証明する控え
  • ナウルへの入出国に使う飛行機のEチケットの控え
  • 自国からナウルへ入出国するまえに飛行機に乗る場合はそのEチケットの控え

最後の書類は、例えば日本に住んでいてブリスベンからナウルに行く場合は日本からブリスベンに向かうまでに乗る飛行機のEチケット控えがそれにあたる。ちなみに申請書には署名欄があるため、一度フォームを印刷して記入してからスキャンしたほうが楽かもしれない。このWordファイルは一部崩れているが、記入内容がわかれば問題ない。

2. 航空券を準備する

ナウルに就航している航空会社はナウル航空しか存在しない。以遠権に守られているからか競合がまったく存在しないためかなり高価だが、これ以外の到達手段が何一つないので諦めてチケットを買おう。あとで気づいたのだがそもそも結構ナウルは遠いのだ。人間が定住している他の島まで数百キロ、オーストラリア大陸からは1000キロ以上ある絶海の孤島なのである程度は仕方ない。

ここでの問題はフライトスケジュールが非常に立てづらいところにある。定期便は一週間単位で設定されていて、ブリスベンの他7つほどの空港を結んでいる。これが2019年5月時点でのナウル航空の一週間だ。ナウルに深夜到着の便も多く、旅行者にとって使いやすい便もまた少ない。さらにがんばって読み解くと、ある一カ所の空港から飛び立ってナウルで一泊して元の場所に戻る、というスケジュールが立てられないことがわかる。なにもないことで知られるナウルに三泊するか、あるいはナウルで一泊したあとまた別の空港へ飛び立つようなスケジュールを立てなければならない。多くの人が使いたいであろうブリスベン空港を絡ませると、もはやルートはほとんど選択肢がない。すべてのスケジュールはナウル航空に合わせなければならないのだ。フライトまでの日数があまりない場合は返金に対応しているクラスを選んだほうがいいかもしれない。ビザの発給がかならずなされるとも限らないし、なんだかんだといいわけづけて返信がいつまでたってもこないこともある。私がそうだった。

3. 滞在場所を確保する

飛行機のあとはホテルだ。ナウルには知られているホテルは二軒しかなく、そのどちらもBooking.comやAgodaのようなホテル予約サイトではみつからなかった。ナウルで一番クオリティが高いのはメネンホテル(MENEN HOTEL)というところで、多くの旅人や仕事でナウルに滞在している人はこのホテルを選んでいるようだ。このホテルも公式サイトらしきものは見当たらない。予約はメールでおこなえる。Yahoo!のフリーメールを予約窓口に使っているホテルは初めてみた。メネンホテルは空港のあるヤレン地区からは少し離れている。送迎が必要になるだろう。赤道直下の島で外を歩くのはとてもつらいものがある。暑さはともかく湿度が尋常じゃない。

ほかにも空港から徒歩で15分くらいの場所にはアイウォホテル(AIWO HOTEL)もある。こちらは民営らしい。ホテルの向かいにはスーパーマーケットもあり、近くにはレストランもある。

しかしわたしはAirbnbで探した。9000円くらいなのでかなり高いが、現時点でネットで予約可能な唯一の宿泊施設だった。場所は便利で空港からは歩いて1,2分といったところ。道中には小さなグロッサリーストアもある。オーナーはナウルについてあらゆることを知っているし、日本に仕事で住んでいたこともあるという素敵なおじさんだ。空港近くの一軒家に家族で住んでいて、そのうちの二部屋を宿泊施設として提供しているようだ。Wi-Fiはないがエアコンは完備されている。夜は気持ちよく眠れるだろう。

4. 英文の雇用証明書を用意する

これはどれくらい重要なのかよくわからない。わたしはGoogleで検索したテンプレートを適当に内容だけ変えてなんとなくの雰囲気で作成し、A4用紙にプリントして上司のサインをもらった。自営業者であればその旨を記入して自作すればいいと思う。それほどガチでつくる必要はなさそうだ。

5. すべての書類を添付して再度メールを送る

先ほどのGmailのアドレスに書類を添付してメールを返す。一週間ほどで審査は終わり請求書がくるというが、わたしはここからが長かった。いつまでたっても審査完了のメッセージが届かないのだ。10日ほどたった時点で催促のメールを送り、14日目の時点で少し強い内容で再度催促のメールを送った。ここで無視されたらナウル航空へ支払うチケット代もAirbnbの宿泊費も無駄になる。10万円ほどをドブに捨てることになるのでなんとしても返信がほしかった。

二回目の催促のメールには返信がきた。内容は「システムが故障して修理するまでビザの発給ができなかった、またイースター休暇で審査が遅延していた。これから審査する」というもので、あまりにもひどいがもはやこちらとしては返信が来ただけありがたいと感じるようになっている。「大変ななか返信してくれてありがとう、請求書がきたらすぐに支払うし空港で支払うこともやぶさかではないよ」という内容で返信したが、先方からの返信はなかった。

6. 手数料を支払う

結局東京を出発してオーストラリアに滞在している最中に請求書を受け取ることになった。それもブリスベンへ向かうためにシドニー空港で飛行機を待っている途中にだ。これ以上遅くなるようなことがあればレターを偽造しようかとすら思っていたところだった(重罪です、やめましょう)。ナウルには安定して運営されている一般的な銀行がない。そのため政府機関への手数料であっても、その送金先はオーストラリアの銀行になる。この手数料はクレジットカードによる支払いや空港到着時の支払いは認められていない。とても面倒だがしかたない。振り込んだ証明としてレシートみたいなものを同様に添付してメールで送れば、ビザ発給の許可を証明するレターを返信してくれる。

銀行や郵便局から海外の口座に送金すると手数料として2500円から3000円程度かかる。これはかなり高いので私はTransferWiseを使った。手数料はせいぜい数百円ですむし、相手の口座に振り込まれる金額が現地通貨の金額で事前にわかるため非常に便利だ。銀行や郵便局とは違ってインターネットだけですべて完結するし、レシートもPDFでダウンロードできる。それをそのまま送るだけだから翻訳の手間もスキャンの手間もかからない。

7. レターを受け取る

振り込んだというレシートを送り、ついに明朝出発だ、というタイミングになってもまだレターが届かない。いい加減にしてくれという気持ちもありながら催促のメールを送り、ついにレターを受け取った。長い戦いだった。ナウル出発の本当に直前のレター受け取りだ。これがないとそもそも飛行機に乗り込むことすらできない。空港のチェックインカウンターでレターの有無を確認され、しかもそのレター記載の番号を控えられるのだ。そりゃ誰もこないわけである。こんな面倒な方法で守るべき国ってなんなのだろう。まわりの南太平洋諸国は先進国の国籍を持っている旅行者ならどこもビザなしで滞在できるというのに…。

添付されたレターはPDFファイルなので、ブリスベン空港のチェックインカウンターとナウル空港のイミグレーションカウンターで見せるため印刷しないとならない。泊まっていたホテルのカウンターに尋ねてみたら快く無料でプリントしてくれた。さすが安心と信頼の安ホテルibisだ。これからも使おう。安いし。ちなみに後ほど調べてわかったが、ナウルへビザなし渡航が認められているのは南太平洋の群島国家のみで、たとえニュージーランド国民でもオーストラリア国民であってもナウル滞在にはビザの取得が必須となっている。というわけで唯一の在外公館が設置されているブリスベン在住のオーストラリア国民でもなければメールでのやりとりが事実上必須となる。

8. 飛行機に乗り込む

空港のチェックインカウンターに向かい、印刷したレターとパスポートを提示しよう。ほかの旅行者の情報によれば、印刷したレターなんてほとんど確認されないという言葉も見られたが、私の場合は結構ちゃんと確認され、しかもビザ番号を控えられた。偽造していたら大変なことになっていたかもしれない。

面倒だったがこれでタスクはすべて完了だ。ここまでくればあとは飛行機に乗り込み到着を待つだけである。

9. ナウル空港でビザを受け取る

ここまでくればあとは簡単だ。空港のイミグレーションカウンターで大きなスタンプをパスポートへ押印してもらって完了となる。

レターなしで通れそうな感じではなかったが、かといって例えば手元の専用端末でビザの番号を確認したりレターの真贋を確認したりするようなことはしていなかった。レターに書かれた番号をパスポートに押したスタンプの上に記入していたくらいだ。入出国で押されるスタンプは通常のサイズでそれぞれ一つずつ、ビザスタンプがパスポートのページを埋めるくらいのものが一つ。

これを受け取るためにどれだけの手間とお金がかかったのかを考えると、また行きたいとはなかなか思えない。しかしこの記事がナウルに行きたいと考えているこれからの旅人の役にたてばいいなと思う。

実際にナウルにいってきた体験談はこちら: ナウルにいってきた その1