熊本にいってきた
コロナ禍による自粛要請が解除され、2020年6月19日現在はゆっくりと日常がもどってきている。まだこのあとにくるかもしれないという第二波、第三波を警戒しなくてはならない状況ではあるが、長い自粛の反動もあり久しぶりに少し遠出をしてみたかった。マスクをつけソーシャルディスタンスをこころがけつつ、仕事はリモートワークで実施するという世の中のながれに身を任せ、しかしその仕事場をすこし遠方にすることにした。悪いことなんかなにもしていない、ダメージをうけた日本の観光地に貢献するのだと自分にいいわけをしつつ、まだいったことのなかった国内5県のなかから熊本をえらんだ。
朝の羽田空港、人は少なく閑散としている。久しぶりに訪れた空港の景色に少し泣きそうになった(たかだか3ヶ月ぶりなのだが)。空港内のお店は地方の寂れた商店街のように軒並みシャッターを下ろしているし、就航していたはずの多くの便は欠航している。日に数本ある各地への便は大きく減便され、たとえば一日に一カ所あたり1便とか2便だけとなっている。なんとかなしい状況だろう。災害だ。空港利用客よりも空港スタッフのほうが多いようにみえるくらいのなので、チェックインも荷物検査も待つことなくすいすい進む。検査の済んだ荷物のピックアップにもたついても焦ることはない。後ろには誰もいないのだ。
搭乗ゲートにはそれでも人はそれなりにいる。しかし機内は隣席の大半がブロックされているので人数としては定員の半数程度だろう。機内ではCAも乗客も全員マスク着用、サービスのドリンクは紙パックでの提供、ゴミの回収も降機時に乗客が持って降りるというルールになっている。LCCのようだがしかたない。座席の隣があいてるというのはなかなか快適なので個人的には不満はない。それにいつも飛行機で飲んでいるドリンクだって冷たいお茶だけなので実のところ私にとっては差異はなかった。
はじめて降り立った熊本空港。繁華街の広がる熊本駅までは連絡バスで1時間ほどかかる。料金は800円。大分空港ほどではないが熊本空港もかなり不便な立地にある。アクセス鉄道を検討しているという記事はあるが、実現性は低そうだ。
熊本市街地へ到着したころ、時刻はとうに正午を過ぎていた。前々から行きたかった熊本ラーメンの店「黒亭」へ向かった。卵黄が二つ入った玉子ラーメンが定番メニューだという。人気店のようで20分ほど待たされた。
味はおいしかった。が、ご当地メニューにしてはマイルドであまり強い特色を感じなかった。よくある豚骨ラーメンだと思ったが、ニンニクの風味と具材のキクラゲが特徴らしい。言われてみればそんな気もするが、ラーメンの差分とはそれくらいのものなのか。それくらいのものな気もする。塩、味噌、醤油に豚骨といった大別される4ジャンルのなかでの地域差によるデルタは、わたしにとってはやや曖昧に感じた。お店間の差異のほうが大きいと思う。
梅雨もあけてないのに大変な暑さの熊本の市街地を歩き回る。街の中心地には熊本城がそびえている。震災から4年たっているが、いまもで復興の道半ばであることを示す背の高い工事用フェンスに囲まれているし、お城の石垣は崩れてその中身がこぼれている。プレートテクトニクスのすさまじい力を感じる光景だ。
夜になり、初めて訪れる熊本の名物をいただいてみたいと思った。熊本は特色ある食材も料理も多彩にそろっており、このために来たなと思えるようなおいしい料理とそれを提供するお店もまたあふれているようだ。このご時世でしまっているお店もあるのかと思いきや、熊本の夜の街の発展度合いはそれはもう大変なもので、コロナ禍なんてなかったかのように賑やかだった。
コンビニ入ってすぐこれである。日々肝臓を酷使する生活をみな営んでいるのだろう。ネットで人気のある熊本料理の店に入った。
観光客相手のお店なので値段は高い。一人で入ってカウンターに座り、熊本の焼酎をのむ。辛子レンコンと馬刺しを食べた。おいしかった。その後いくつかのお店をまわっていた記憶がぼんやりと残っているものの、ホテルに帰ってくるころには完全に酔っていた。20代も終わるというのに雑なお酒の飲み方は変わらない。日本だと犯罪に巻き込まれないし安心して前後不覚になってしまうのはひたすら悪い癖だ。
翌朝は早くから草千里ヶ浜に向かう(二日酔いにならない体質なのが幸いする)。熊本市街地からは電車やバスに乗って阿蘇駅までたどり着き、そこからまた別のバスに乗り継いで向かう必要がある。さらに現在は大きく減便されているため時間に融通はほとんど利かない。乗り継ぎが必要とはいえさして難しいルートではないものの、念のためバスチケット予約/購入の前にカウンターでルートの確認をしておいたほうがよい。帰れなくなってしまうとかなり困ったことになる。
バスは案の定だれひとり乗っていない。行きも帰りも私とドライバーだけだった。売り上げなんてほとんど立たないだろう。このまま疫病が収束して夏には活気がでているといいなと思う。
到着した草千里ヶ浜は曇っているが鮮やかな緑に覆われた風景が広がる。こんな雄大な景色はみたことがない。ジオパークに登録されているだけある。世界中でもここにしかない非常に美しい場所と認められているのだ。
山の上だからなのだろう、風がとても強い。地表の草は激しくうねっている。 遠くに見える水たまりがあり、これは雨水がたまって大きくなったり小さくなったりを繰り返しながらここにずっとあるものらしい。冬の寒さが厳しさを増すと氷結することもあるという。熊本ではニュースになる出来事のようだ。
みずたまりに近づいてみる。とくに変な生き物がいるというわけではない。遠くから見ると鏡のように銀色に丸く光っていた水盆も、近くから見ると土が露出していて黒く、わずかにコケが生えている。もともと雨水だし近くには馬も放牧されているので清潔なものではないだろう。遠くからみたままのほうが美しい思い出でいられるかもしれない。
熊本駅にもどり、駅の中にある特産物や土産物を扱う店をまわる。おいしそうなものばかりだ。くまもんも少しだけ好きになった。九州を訪ねると毎回太るのだが、後悔はない。東京にもどってから痩せればいいのでトータルでは勝っている。問題ない。たぶん。