フル・スコティッシュ・ブレックファストを食べてみた

サマセットモームという人物がいる。「人間の絆」や「月と六ペンス」で知られる作家だが、彼は「イギリスで美味しい食事がしたければ、1日に3回朝食を取ればいい」という言葉を残しこの世を去った。調べてみると他にも文学者のサミュエル・ジョンソンも「食通なら誰でも、世界中のどこで夕食をとっても朝食はスコットランドで取るだろう」と絶賛していたらしい。そんなイギリスの朝食は、現代ではフルブレックファストとして世界のホテルの定番メニューにもなっている。なかでもスコットランドのそれはスコティッシュブレックファストとよばれ、ハギスなどの伝統的料理がついてくるらしい。気になったのでスコットランドに来たついでに朝のカフェで食べてみた。

右下の黒いものがハギスだ。羊の挽肉と羊の内臓を、羊の腸に詰めて煮たり蒸したりする伝統料理である。それだけ聞くとかなり抵抗をおぼえる人がいそうだが、実際には味が濃くやわらかいソーセージみたいなものでこれはこれでおいしい。それ以外は普通のイングリッシュブレックファストと変わらないように思う。

……正直にいえば私には改めて食べてみたこの朝食の魅力はよくわからなかった。もちろん変なものが入っているわけでもなく、なので当然それなりにおいしいとは思うが、このプレートをさしてサマセットモームの愛した朝食とされているのは個人的にはクエスチョナブルである。目玉焼きにソーセージに煮た豆に焼いたトマトにハムにトーストである。彩りだって鮮やかとは到底言いがたい。いまでこそ大いに改善されたとも言われるが、当時のイギリスの食のレベルの低さを皮肉った表現だったのではなかろうかという気すらしてくる。釣りというかなんというか、本当に高く評価した上での言葉だったのだろうか。このメニューの朝食を高く評価している人は令和4年にも存在しているのだろうか。

ちなみにこれはすき家の「まぜのっけごはん朝食」である。サマセットモームが食べたらどう評価しただろう。