できるだけ現金を余らせないように旅をしている
いろいろな国を移動していると、毎回困るのが出国時における現地通貨の処分だ。米ドル札やユーロ札は余っても使える国が多いのでいつか使えるだろうと思えば別にいい。しかしそれ以外のソフトカレンシーと呼ばれる通貨は流通している国以外ではただただ邪魔になる。信用のないソフトカレンシーは隣国ですら両替できないケースも多いし、たとえできてもレートが悪かったりする。そして現金としても紙幣は両替できても硬貨は基本的に両替困難だ。硬貨の場合はドルやユーロであっても圧倒的な偏見をもって断固抹殺しなくてはならない。世界最強の通貨の1つである米ドルであっても、一ドル硬貨(見たことないという人も多いだろう)を両替できるお店は大変に希少である。根気よく探せば大都市なら見つかることもあるものの、レートは紙幣よりもかなり悪く設定されている。
出国時に米ドルなりユーロなりに両替したらいいという意見もあろうが、両替所で扱っている紙幣としては1ドル紙幣が最小単位で、つまり120円ほどの通貨単位にみたない現地通貨はやはり余ってしまう。たとえ50円分のお金であっても街のゴミ箱に捨てる訳にはいかないし、余った硬貨という無意味な金属を長い旅のあいだじゅう持ち運ぶのも許せない。数カ国なら思い出のトークンでいてくれるかもしれないが、50や100という国の数を経てしまってはそれはもはや純粋な負債だ。全然おもしろくなかった国があったとして、その国のお金を使うためだけにまた再訪するのは本末転倒である。
というわけで大きめのスーパーなどですべての現金をぴったり使い切れるようたくさんの商品を組み合わせ、何度も何度も棚の間を歩き回り、旅行鞄の中にあっても困らないようなものを買っている。少額であれば飲料水のボトルやニベアのクリームなど、ある程度大きい金額であれば薬局で風邪薬やビタミン剤などを組み合わせるとまとまった金額を上手く使える。空港なら「残額をクレジットカードで支払います」と宣言して現金をすべて渡してしまうことも可能だが、鉄道やバスの旅であればなかなかそうもいかない。しかし私はこのパズルをかなり楽しめるのでこれまでのところ問題にはなっていない。1円も余さず使い切る組み合わせを見つけ、レジですべての硬貨を渡し商品を受け取ることができれば大勝利となる。
このパズルにおいてもっとも難易度が高いパターンは、いうまでもなく総額表示がなされない外税表記の国で、カナダやアメリカなど世界的に言ってそれほど多くはないもののこの場合はスーパーでぴったり使い切るのが著しくむずかしい。商品によっては無税だが、この商品は13%、これは5%、こっちは15%みたいな国もある。州によって税率も異なる。先進国であればキャッシュレス決済の使えるお店が大半なのでそもそも現金を一切持たないで旅をすることもできるけど、屋台とか小規模な観光施設では現金onlyだったりするので観光客として過ごす間中いっさいの現金を持たないというのはそれなりにリスクがある。
現地に自分より長く滞在している日本人がいるのであれば、彼らに日本円と交換してもらうという方法もある。つい最近わたしは手元に2カナダドル硬貨が余ってしまい、現地の日本人にほぼ等価の百円玉二枚と交換してもらった。私が今後日本に帰らないということはまずないし、そのときにSuicaにでもチャージしてしまえばとりあえずはムダにならない。とはいえ日本のコインを持ち運ぶのも可能であれば避けたい。日本のコインが使える機会は日本国外ではほとんどない。リトアニアの杉原千畝記念館のお土産売り場で使えるくらいだろうか。
どうしても出国の直前まで硬貨が余ってしまったときは、ギリギリまで使った上で街の大道芸人やホームレスの人々にあげることになる。このパターンは完全なる敗北だ。これまでこのルートを選んだことはほとんどなく、大抵は買い物の工夫で乗り越えてきた。レジで寸分違わない金額を出して会計を済ませたときのカタルシスたるや並大抵の娯楽では味わえない達成感と充実感がある。
ちなみに出国後に余ってしまった少額の外貨コインは寄付にも使える。わたしもJALの機内で封筒をもらって寄付したことがあるが、乗務員さんから感謝されるしいいことをしたという気持ちよさもある。これが最終手段だろう。世界共通のポイントカードみたいなものがあり、世界各国の郵便局かなんかでコインをチャージできて他の国でも使えるとか、そういう仕組みがあればいいのになといつも感じている。国際返信切手券のように、理論的には可能じゃないかと思うのだが。ムリかな。ムリだろうなぁ。