キプロスにいってきた その1

地中海に浮かぶ島、四国の半分ほどの面積をもつ国がある。キプロスという名のその地は、およそ北半分がトルコによって占領されている「北キプロス・トルコ共和国」、南半分が「キプロス共和国」の領土となっている分断国家だ。私はこれまでキプロス以外の全てのEU加盟国を巡ってきた。このキプロス共和国がEU加盟国最後の地となる。

離島だからといってアクセスが悪いわけではまったくなく、ヨーロッパ各地からLCCはもちろんたくさんの航空会社が就航している。ライアンエアーであれば片道20ユーロもあればヨーロッパのどこからでもアクセス可能だ。そのため現在はヨーロッパ人にとっての気軽な一大リゾート地として開発されており、時期を問わずたくさんの観光客がやってくる。その数は年間400万人に及び、国の人口あたりの観光客数でいえば世界第六位となる。青い海、白い雲、美しい砂浜という、およそ日本人であれば誰もが持つような南洋幻想を実現してくれる優れた観光地なのだ。そんな国キプロスに行ってきた。

久しぶりのライアンエアー。すでに搭乗にマスクは不要だ

キプロスの歴史は複雑で、トルコに占領されている北半分の領域は国として一応独立しているものの、しかし北キプロス国を承認している国家はトルコ以外に存在せず、北キプロスの政府も事実上トルコによる傀儡政権となっている。アブハジアやオセチアといった国家の承認をまともにうけていない類いのミクロネーションに近い。とはいえ、キプロスの軍、北キプロスの軍、トルコの軍、旧宗主国であるイギリスの軍、緩衝地帯に駐留する国連軍、様々な軍力が微妙な均衡をたもちつづけて数十年経過しており、実のところ非常に平和な島でありつづけている。南北の再統合についても継続的に協議されているようだ。

降り立ったパフォス空港は猛烈に混雑している。EUの一部なのでEU国民であればパスポートコントロールはキオスク端末でスキャンさせるだけですむが、日本人をふくむその他全ての入国者はかなり待たされる。たとえばイギリスとキプロスのあいだだけでも週に75本にも及ぶフライトが飛んでおり、ひっきりなしに人が流れ込んでくる。審査自体は時間がかかるものではないので、単純に遊びにくる人がおおいのだ。

市街地に向かう安価な路線バスもあるのでそれを使ってもいいが空港から各ホテルまでのシャトルサービスもたくさん出ている。私はviatorで事前に予約したが、周りをみるに当日その場で申し込むこともできるようだった。路線バスは1.5ユーロと非常に安いものの本数がそれほど多くないので空港で待つし、パフォスの街はそこそこ坂が多いので大きな荷物がある場合はシャトルバスをおすすめしたい。大した距離でないしキプロスではそんなに運賃が高くないので複数名ならタクシーでもよさそうだ。

海沿いには観光客相手のレストランなどが立ち並ぶ

キプロス第4の都市パフォスは地中海に面している。人口9万人ほどの小規模な街だが、夏のあつい日差しが海の色を鮮やかなブルーに染めており紛れもなくすばらしいリゾート地であると実感させてくれる。遠浅の海で、老若男女みな気持ちよさそうに泳いでいる。ビーチには監視員もいるし無料のシャワーやお手洗いも用意されている。すばらしいホスピタリティではなかろうか。もうハワイやセブではない。パフォスの時代がやってきている。

パフォスビーチに点在する銅像は、そのモチーフがよくわからないものがおおい。みんななんとなく写真をとったりしているが、きっと同じ気持ちだろう。

遺跡

パフォスの街には古代から中世までの遺跡が点在しており、その大部分はこのパフォス考古学公園の広い敷地内におさまっている。非常に状態のよいモザイク画を見学することができるのだが、めずらしいことに園内には警備員も学芸員もほとんどいない。ずいぶん放任主義だなと思うが、とくに日本の美術館で顕著な非常にうっとおしい注意を延々と受けないですむのはとてもとても快適だ。

入り口は海の近く

入場料€4.50、クレカも使用可

綺麗で貴重っぽい作品には柵がある

4dpiくらいだろうか

園内は広いので日焼け止めと飲み物を持っていこう

屋外のモザイク画も野ざらしだ

こうしてみるとやはりギリシャ民族の国だ。この手の遺跡が好きな人はギリシャとセットで観光してみるのもよいと思う。

園内には自動販売機が設置されている。日本語のままだった。水のボトルは一本50セントで買える。リゾート地なのに物価が安い。

日が暮れて瑠璃色になったキプロスの空。この国は一年のうち360日が晴れと言われているほど天気がよく、雲一つ無い夕暮れや星空を毎晩楽しむことができる。アストロツーリズムのメッカでもあるようだ。

ラルナカへいこう

パフォスに4日ほど滞在した。居心地がよく後ろ髪が引かれる思いだが次の街ラルナカへ向かうことにする。ラルナカもビーチリゾートとして知られた街で(この国で海沿いの街はどこも似たようなものだ)、キプロスでは第3の規模を持つ都市でもある。パフォスからはバスで片道2時間かかる。料金は安く7ユーロほどだが、直行するバスの本数は平日は一日に3本、週末は夕方に一本だけとなっているため、運行頻度の多いキプロス中部の港町リマソルまで行って乗り換えれば明るいうちにラルナカへ到着できる。

パフォスバスターミナルは現在工事中で、屋外の駐車場みたいな場所が代わりとなっている。乗るべきバスはわかりにくいが、どの路線も頻発しているので間違えてもたぶんなんとかなる。乗車には現金しか使えず、おつりは出るが少額紙幣のみ対応であるため可能ならユーロコインをぴったり用意しておこう。

中古車ばかりのギリシャとちがって統一されたデザインの新車バスが走っている。キャッシュレスで乗れればよりよいのだけど。

街の高台に位置するインターシティのバス乗り場。ここからキプロス各地への長距離バスが出発する。バス会社の名前がついたプレハブ小屋が建っているが、チケットはここではなく車内で購入するので注意されたい。

大きい荷物も無料で預けられる

バスは1時間半ほどで乗り換えの街リマソルにたどりつく。パフォスやラルナカと異なり、この街には大規模な国際空港がなく観光客も多くはない。

美しいプロムナード

リマソルで乗り換えてラルナカへ向かう乗客はそこそこ多いのでバスの運転手が「ラルナカ行きはここでおりてくれ!」と案内してくれる。乗るべきバスは大抵は数十分でやってくるはずだ。バスに乗ったらさらに1時間ちょっとで目的地のラルナカに到着する。

到着したラルナカの街はパフォスにくらべるとすこしばかり都会らしさがある。高層ビルはほとんどないしビーチは変わらず美しいままだけど、パフォスよりもリゾート感は多少なり薄れたようにみえる。暑いからか人は多くない。

Airbnbで取ったラルナカの宿。簡素だが一人旅にはひろすぎる

パフォスから首都ニコシアまではかなり距離があり、さらにバスの本数も非常に少ない。大都市ラルナカからだとアクセスは飛躍的によくなるので、明日はこのラルナカを拠点に国境で分断された首都ニコシアに向かい、未承認国家北キプロスへ入国してみることにしよう。

つづく