オマーンにいってきた その2
街歩き
マスカットの街を歩き回ってみる。オマーンというガソリン価格の安いお国柄、ほかの中東諸国と同様にこの国も強烈な自動車社会だ。公共交通としてはバスだけが存在しており、一応マスカット市内でのメトロ敷設が検討されているというが、まだまだ計画止まりのようだ。人口過密地域というわけではないので、行政も本腰をいれて対応するモチベーションがないのだろう。
観光で移動するだけならバスを使いこなせれば十分ではあるものの、主要な路線以外のバス停では乗車まで結構待たされる。そして大抵のバス停には路線図もないし時刻表もない。使いこなすのは西鉄バスよりも難易度が高い。太いハイウェイはもちろん、交通量の多い通りには基本的に横断歩道も信号機もほとんどない。たまに歩道橋が現れるのをのぞけば、この街は炎天下の気候もあって歩行者にとってはあまり優しくない。
歩いていて見かけた巨大なショッピングモールに入ってみた。金曜日がイスラム文化圏における休日だからか、閉まっているお店も多く、モール内にも人がほとんど歩いていない。明るい廃墟のようだ。動画サイトでこのモールの中を歩く映像を何本か見てみたが、そのどれも人が少ない。この集客力でやっていけるのだろうか。
オマーンは他の中東諸国と同じように外国人労働者が多い。人口の25%をしめている外国人居住者の多くは、インド、パキスタン、バングラデシュ、フィリピンから出稼ぎに来ているため、そういった国々のファストフード店も見られる。そう、オマーンにはジョリビーがあるのだ!
フィリピンに二ヶ月ほど滞在したときにジョリビーの魅力が脳髄へとインストールされてしまったため、フィリピン人が多い都市に進出しているジョリビーの赤い看板を見ると自動的に体が引き寄せられてしまう。ジョリビーは是非日本にも進出してもらいたい。いいかい学生さん、Champバーガーをいつでも食えるくらいになりなよ。と思ったがオマーンのジョリビーにはChampバーガーが売られていなかった。そういえばイギリスのジョリビーにもなかったな、フィリピンだけなのかな、と思いきや、二年ほど前に終売となっていたようだ。残念。
オマーンはわりあい厳格なイスラム教を国教としているお国柄から、ほとんどアルコール飲料が流通しておらず、一部の高級ホテルの中にあるレストランや専用のライセンスをもった外国籍の住民のみ購入ができる仕組みとなっている。わたしは民泊を利用していたので滞在中は空港以外で飲酒しなかった。一部店舗に限られるとはいえ手に入れようと思えば手に入れることは可能だし、一般人であっても空港であれば普通に手に入るので、さらに厳格な国にくらべればオマーンはまだ多少緩やかだ。とはいえ一般のオマーン人はアルコール飲料を飲む機会が限られるので、オマーン人へのお土産としてアルコール飲料を渡すと大層喜ばれるという。
コルニーシュ
レバノンの首都ベイルートに行ってきたときと同じように、マスカットの海岸線も美しいコルニーシュを持つ景勝地として知られる。きれいに遊歩道が整備されており、一部には日よけのオーニングも設けられている。熱中症に気をつけて散歩してみよう。
海の水は透き通っている。この国の持つ3200kmにわたる海岸線は、どこであれ水底の白い砂が海の青を鮮やかに彩っており、浅瀬でも美しいエメラルドブルーの光が輝いている。高校の修学旅行で沖縄に行ったとき、クラスメイトが海をみて「バスクリンみたいだな」と言ったことをふいに思い出した。
マトラフォート
コルニーシュを臨む岩山の上に小さな要塞がある。500年以上前に作られた軍事施設で、現在は観光施設になっている。要塞という名前から想像できるようなサイズ感ではまったくなく、はっきり言って非常に小さい。この要塞自体には博物館もないし、入ってしみじみできるような部屋もない。
展示がない小さな遺構なので15分もあれば見て回れるが、このオープンエアスタイルの遺跡が太陽の光と海風を浴びて静かにたたずんでいる姿はそれなりに歴史が感じられる。
頂上から見える景色がこの遺跡の最大の見所だ。オールドマスカットを一望できる場所といえばここが第一にあがる。マスカットの条例により、家々は屋根や壁を白や薄茶色で塗ることが定められている。海の青と家の白の組み合わせは、サントリーニやミコノスの風景を思い出させるかもしれない。
Mutrah souq
マトラスークと呼ばれる市場にきた。オマーンの伝統的なテクスタイルやジュエリー、謎のアンティーク、香水やスパイスなど、人が想像するコテコテの中東らしさであふれるエリアだ。
ほぼ観光客向けの場所で、当然ながら客引きだけは猛烈にたくさんいてサラウンドで声がかかる。ニコニコしながらイスラムっぽい帽子を私にかぶせようとしてくる無数のおじさんがうようよしている。すべて無視して通り抜ける。雰囲気を味わいたいだけで、私が欲しいものはとくにない。上手に値段交渉ができなければ割高なので、欲しいものがあれば普通にショッピングモールなり街のスーパーなりで買うほうがいいと思う。
市場のなかはわりと入り組んでいる。那覇の国際通りにあるドンキ横の商店街のようだといえば雰囲気は伝わるだろうか。迷路のように、という表現を用いるほど複雑ではないものの、車は通れないくらいの細い路地が四方八方にうねうねと伸びている。
路地に入れば食堂や喫茶店も立ち並んでいる。メインの通りに比べればいくぶん地元の人たち向けの雰囲気が出ている場所だ。
アラブ世界でもっとも古い独立国家の首都であるとはいえ、正直ほかの中東諸国に比べれば観光立国を実現しているとは言いがたい。それでもこの国の誇る美しい海岸地帯ではスキューバダイビングも楽しめるし、トレッキングのできる渓谷もある。まぁ国教のせいもあり長期滞在するには日本人にとってすこし退屈するかもしれないが、数々の文人墨客が愛した伊豆修善寺のように、海の見えるホテルにでも泊まってのんびり逗留してみるのもよいとおもう。あなたがとても暑い夏と暖かい冬の砂漠気候が苦手でなければ、治安はいいし物価もそれほど高くないのでオマーンの居心地の良さはオススメできる。リュックサックにMacBookとHHKBをつっこんで、令和最新版の川端康成になろう。