ナイアガラの滝にいってきた
私はなぜか滝が好きで、日本三名瀑はもちろん、有名な滝を擁する街に行く機会があればできるだけその滝を見に行けるような旅程を立てる。というこの書き出しのテキストを書いた時点で念のため自分の頭の中で思い描いている三大名瀑の知識が正しいことを確認すべく調べたところ、日本三大名瀑は3つどころではなく全国にいくつもあることを知った。三大名瀑とされるものをこれまで既に3つ見たので満足していたが、まだまだ見ていない三大名瀑はいくつもあった。ほかの滝もいずれ見に行こう。
しばらく前に行ったイグアスの滝が大層よい体験だったことも手伝い、せっかくなので海外の著名な滝もいろいろと見てみようかと、まずはカナダの西部の都市トロント郊外にあるナイアガラの滝へ行ってみることにした。日本人にも広く知られた、間違いなく世界で最も有名な滝だろう。
自然の滝というのはえてして都心部にはない。とはいえナイアガラのアクセスはそんなに悪くもなく、トロント中心部から電車で2時間ほど。最寄り駅からはさらにバスでの移動となるが、一日に何本も出ているルートなので当日ふと行きたくなっても問題ない。北米大陸には公共交通でアクセスできない観光地がめちゃくちゃな場所に散らばっていることを考えれば、ナイアガラは相当便利な部類だろう。カナダとアメリカは車がないと本当になにもできない。
ナイアガラの滝まではツアーバスなども出ているようだが、わたしは普通に鉄道で向かうことにした。出発はカナダ最大の駅Union Station。券売機で最寄りとなるバーリントン駅までの片道切符を買い、まもなくやってきたVIA鉄道の列車に乗りこむ。車両はなかなか清潔で居心地がいい。
車窓から眺めるトロントの風景はアメリカのそれによく似ている。しかしカナダというのはベター・アメリカであるなと来るたびに思う。きっとみな同じことを感じているのではないだろうか。銃規制は隣国に比べてはるかに厳格だし、国際単位系も国民皆保険制度も導入済みだ。住むならこっちがいいな……。
到着したバーリントン駅。駅前のロータリーからGOバスというのに乗る。おなじバス停にまっているナイアガラの滝目当ての観光客が何人もいるので間違えることはないだろう。
バスは滝にほど近い繁華街へ向かってくれる。滝を見に来た観光客相手のホテルやレストランが集積している賑わいあるエリアだ。ナイアガラの滝はほかの名瀑とは異なり、雄大な大自然の中という雰囲気はみじんもない。ゴリゴリと観光開発されたこの繁華街を通り抜ければ滝はもう目の前だ。
イグアスの滝にくらべれば幾分こぢんまりとした印象もあるナイアガラの滝だが、絶え間なく流れ落ちる水の豊富な水量はイグアスよりも多いらしい。透き通った大量の水が水煙をうみ虹を描き、すばらしいパノラマを作り出している。
この川を挟んで向かい側の陸地はアメリカだ。そういう構造の都合上アメリカ側からは滝の大半が見えず、この雄大な風景はカナダ岸に特有のものとなる。アメリカとカナダは橋で結ばれており、国境管理もその橋で実施されている。アメリカ側から見てもなにもおもしろくないため、多くの観光客はカナダ側までやってきて滝を見物しているようだ。また、アメリカでは飲酒可能な年齢が21歳、カナダでは19歳であるため、背伸びしたい若者たちも橋を渡ってお酒を飲みにカナダへ来るとのことである。
滝を見るための展望台をうろうろしていたら、飲料メーカーのキャンペーンでアルコール飲料を配っていた。アルコールが5%入っている。冷えてはいないが、せっかくなので滝を見ながら、そしてアメリカからやってきた19歳の若者の気持ちになりながらウォッカアイスティー(マンゴー味)ドリンクを飲んだ。あまくておいしい。日本の路上でこんなふうに酒を配ることはなかなかないのだろうな。
おなかが空いたので適当に見つけたバーガーショップでハンバーガーとビールを注文した。カナダ有数の観光地なんだからさぞ高かろうと思ったが、べつにそんなこともなかった。ランチセットで1500円ほど。東京でたべても同じくらいの値段しそうだなという程度だ。あとから見たレビューサイトの評価も存外に高く、味もおいしかったのでまた行きたい。何をたべてもおいしいと言う私のレビューに意味はなくても、レビューサイトに集積されたあまたの旅行者たちによる評価を信じるなら、このお店はいいところだ。
駅にもどってきた。滝をみてハンバーガーを食べて帰るだけのささやかな日帰り旅行だが、わたしの心は晴れやかだ。ダイナミックな水の躍動を見るというのは本当に心が洗われる。次はザンビアのヴィクトリアの滝とベネズエラのエンジェルフォールに狙いを定めよう。とはいえ治安の良いザンビアはともかくとして、ベネズエラは外務省から渡航中止勧告まででている国だ。言った国の数が増えてくると、これから行きたい未踏の国々はだいたいどれも「別に行かなくてもいいんだよな…」という場所ばかりになってくる。治安が極端に悪かったり、めぼしい観光名所がなかったり、ものすごいお金がかかったり、そういう国ばかりが私の「次に行くところリスト」にあふれている。