オオノガイをたべた

去年、こんなツイートを見かけた。

「幻の珍味」である。「希少で漁期は年2日だけ」ともある。わたしはオオノガイという生き物のことを知らなかったが、調べてみるとかなり厳格な資源管理がなされているようだ。この情報だけでも、それはもうとんでもなく珍重なシロモノであろうことがわかる。このツイートを見た途端あまりにも心惹かれてしまい、これはぜひとも食べてみたいぞと、わたしの心の中のFoodieが叫びだす。うまみとほろ苦さ、絶対に味わいたい。日本酒とも合うとのことで、それはもう食べないわけにはいかない。わたしはお酒が好きなのだ。しかしこの干物、なぜかどこにも売っていない。

令和五年になにかを買うなら、まずはネットで検索して楽天なんかで注文すればよいのだが、このオオノガイの干物に関してはネット通販で売っているページが見つからず、それどころか商品の詳細について説明したページすら見当たらなかった。幻の珍味らしい手がかりの無さだ。というわけで今年、水揚げの時期となる6月のある日、連絡先として掲げられていた根室湾中部漁港に電話を掛けてみることにした。

電話を受けていただいた担当の方によれば根室市内のほかに卸している場所はないようで、道東に住んでいないのであれば漁港からの郵送以外で手に入れるのは難しいようだった。住所と数量(100g単位)を伝えれば代金引換払いで送ってもらえるとのことなので、とりあえず300グラム買ってみることにした。干物の重さについて注意をはらったことがなかったのでこの量が多いのか少ないのかよくわからないが、まぁきっと十分だろう。商品代金と根室市から関東への送料、代引き手数料を加えて6960円だった。なかなか良い値段する。北海道の根室や稚内から送るのと、札幌や函館から送るのではまったく必要なコストは変わってくると思うが、ヤマトの宅急便では北海道全体でひとつの同じ料金プランになっている。根室から札幌までの距離は東京から京都までの距離に等しい。そう考えると300gで送料2000円は十分安い気もしてくる。

開梱してでてきたたっぷりの貝

わたしは去年、日本にほとんどいなかったので購入を見送ってしまったが、結局のところ今年も配達のタイミングに日本にいなかったので東京に住む妹に商品を受け取ってもらった。クール便なので置き配や宅配ボックスを使うのはいまの時期むずかしい。安定して住所地にいないと食べられない商品でもある。

俺にはオオノガイがある 両手じゃ抱えきれない

写真からはわかりにくいが、あきらかに買いすぎてしまった。300gは正直かなり多い。薄手のプラ容器の中に、おもったよりずっしりと乾いた貝が入っている。300gの貝の干物は、素材そのものの密度のせいか体感では1kgくらいあるような印象を持たせる。いま根室市外で一番多くオオノガイの干物を持っている人間になってしまったかもしれない。

身は独特の形状をしている

堅く乾燥したその身をしがんでみる。味はとても旨い。非常においしい。たしかにこれは日本酒に合う。最初のツイートで言われた通りしょっぱさの中にほろ苦さがあり、食べたことのない味だった。わたしの持つ貝の世界は拡張された。こまかく刻んで炊き込みご飯にしたものもおいしかった。

ところでこのオオノガイの干物、賞味期限が思いのほか短い。一ヶ月ほどしかないため、購入する量には気をつけよう。300グラムの貝の干物を晩酌のお供として消費するのは結構なアル中でないと簡単にはなくならないと思う。

今回たまたま北海道新聞の記事で取り上げられていたこと(そしてわたしが釧路報道部のアカウントをフォローしていたこと)で幻の珍味を幻のままで終わらせることなく触れることができたが、世界にはまだ知りもしない謎の食品や料理が無数にあるのだと思うと気が遠くなる。すべてを体験することはできなくても、できるだけ多くの新体験を味わっていきたい。