エストニアで暮らしてみた (出発の朝)

エストニアへの留学が決まってから数ヶ月。面倒なことも多かったけど、とりあえず新しい生活にも落ち着きが出てきた。 一人暮らしの経験はすこしあるけど、やはりなにもかもが日本と異なっているヨーロッパではあらゆるものが新鮮だ。

エストニアに留学するっていう日本人がこれから先たくさんいるとは思えないけど、もしそういう人があらわれて、このブログがその人の役に立てたらいいなと思う。

この国には日本人が非常に少なく、ほかのヨーロッパの国々に比べて数百分の一程度だ。そのためエストニアへの長期滞在に関するノウハウはほとんどネット上で見つけられなかった。せっかくたくさんの面倒な手続きを経て留学なんてことをしているのだから、このブログ上で今までの手続きやなんかをまとめていきたい。

エストニアの首都、タリンには日本からの直行便はなく、どうやっても第三国を経由しなければならない。でも北欧諸国にとってのオンシーズンである八月半ばの航空券なんて恐ろしく高いのだ。出来るだけ長い距離を安価なバスを代替に移動するため、とりあえずモスクワまでの航空券を買った。

出発の前日には大学の友人たちが上野の居酒屋で小さな送別会を開いてくれた。おいしい鍋料理の店だった。たくさん食べて飲んで終わりにカラオケ行って。私は自分の通っていた大学が正直大嫌いだけど、その大学で唯一得たものはこの友人たちだと思う。大量の日本食や寄せ書きまでもらってしまった。本当にうれしかった。

飛行機の出発は22日の正午。平日の昼間なので家族の誰も空港までは見送ってくれなかったけど、出発の直前に母に電話して「いってきます」と伝えて搭乗する。 離陸してだんだん小さくなる日本の景色を眺めていると、このとき初めて、すこしだけ胸が詰まった。

インターネットの開発で世界はとても小さくなったし、帰ろうと思えば半日で帰ってこられる場所だけど、やっぱり北半球の裏側までたった一人でいくのは期待だけではなくて、心配や不安が胸中にもやもやと残る。それでもまぁなんとかやっていけるんじゃないかなっていうのは、すこし楽観的すぎるのかな。二年間なんてすぐだろうけど、やはり誰も知り合いのいない土地へ一人っきりで移り住むのは度胸がいると実感した。しかしまぁ22歳にもなって少しだけセンチメンタルな気持ちになっている自分にゲンナリした。一体いつになったら大人になれるのだ。

成田空港からの長いフライトが終わり、モスクワに降り立ったのは8月22日の夜。ロシアは短期でも長期でもビザが必須という、旅行には大変不便な国なので楽に取得できるトランジットビザを使った。トランジットビザなら最大3日間滞在できるので、せっかくだからとモスクワ市内の最安ドミトリーに2泊し、その後に夜行バスでタリンに向かった。

ラトビア経由なのだが、その国境を越えたのは三日目の深夜24時過ぎ。交付されたビザの有効期限を1時間ほど超えてしまったのだ。 罰金である。ロシアの国境警備局に支払った金額はさほど大きなものではなく、せいぜい15ユーロ程度だったと記憶している。この罰金はロシアの通貨「ルーブル」以外にも米ドルとユーロで支払えるが、細かいおつりはルーブルで支払われる。私は携帯していた3000ユーロから50ユーロを引っ張り出して支払ったため、細かい金額は覚えていない。

一人暮らしというのは何かと物入りなもので、最初は現地の銀行口座もない以上、ある程度の金銭を携帯していく必要がある。FX会社で換金して、成田空港にある「京成たびるーむ」で受け取った3000ユーロを厳重にタリンまで運ばなければならない。

3000ユーロという超大金を安全に携帯するにあたっては、東急ハンズあたりで売ってそうな、お腹に巻けるパスポートケースみたいなものを使うのが最良であろう。でも私にそんなものを買うお金などないし、そもそもこの機会以外に大金を個人的に輸送する機会などそうそうないであろうから買わなかった。それでも心配は心配だ。モスクワなんか私の印象としてはあまり治安の良いところだとは思っていないし、たとえ日本国内でも私は防犯のため一万円以上持ち歩くことは絶対にしない。会計には極力クレジットカードを使い、現金が必要であれば街中にいくらでもあるコンビニで引き落とせば十分だからだ。

ところが今回はそうもいかない。財布には入らないしバッグに入れるのは不安……。いろいろ考えてはみたのだが、結局私はダイソーで売っていたストッキングに現金を入れ、両側を結んで現金を固定した後にお腹に巻いた。もともと体に密着させるために開発されたものなので通気性もよく、途中で破けるようなこともない。我ながら完璧な防犯テクニックだった。

リガのバスターミナルでの乗り換えが2分しかなかったため気を揉んだが、なんとかモスクワからおよそ18時間にも及ぶ長い長いバス移動は終わりを迎えた。貧乏旅行は私の趣味なので夜行バスなどとうに慣れきっているし、さしたる苦痛でもない。それでも18時間は今までの最長記録を優に超えていた。日本国内での最長バス路線は大宮~博多間のライオンズエクスプレスで、これは1170キロの距離を15時間で走行する。一度乗り換えがあったから単純に比較は出来ないけど、モスクワ~タリン間も相当なものだ。

今年の2月、雪の降る深夜に訪れたタリン・バスターミナルへの再訪だ。あの時の暗くよどんだ曇り空とは全く違っている。そこには雲一つ無く晴れ渡った空からの爽やかな夏の日差しと心地よい涼風が満ちていて、「あー、ここで二年間生活するのか!」と奮起したことを覚えている。

大量の荷物を新たな自分の住処となる学生寮に運び込み、ルームメイトとの顔合わせもすませた。さて、最初の授業まではまだ数日ある。どうせ友達もいないし暇だ。新しくきた留学生がこなさなきゃいけないタスクを一つずつ潰していこう。

新生活に乾杯!

つづく。