コンピューター用語はできるだけ長音付を省かない

「ブラウザ」なのか「ブラウザー」か、「ユーザー」なのか「ユーザ」か、「サーバー」か「サーバ」か、という質問を日本に住む外国人留学生に尋ねられたことがある。日本語に存在しない語を日本語の標準的な表記体系の一つであるカタカナに転写するとき、日本語のような音の少ない(例えば日本語には有気音や鼻母音が存在せず、また流音を複数に分割・区別しない)言語である場合、この転写という行為が精密に行うことができない。そのためある程度共通のルールを用いて音を書き表す必要があるが、日本語の場合はこの標準的ルールに慣例上生まれた例外が多い。

日本政府が公開している外来語の表記方法としては、文部科学省のサイトと文化庁のサイトで公開されている内閣告示第二号外来語の表記らがひとつのよりどころとなっている。

3 長音は,原則として長音符号「ー」を用いて書く。 〔例〕 エネルギー オーバーコート グループ ゲーム ショー テーブル パーティー ウェールズ(地) ポーランド(地) ローマ(地) ゲーテ(人) ニュートン(人)

 注1 長音符号の代わりに母音字を添えて書く慣用もある。     〔例〕 バレエ(舞踊) ミイラ  注2 「エー」「オー」と書かず,「エイ」「オウ」と書くような慣用のある場合は,それによる。     〔例〕 エイト ペイント レイアウト スペイン(地) ケインズ(人) サラダボウル ボウリング(球技)  注3 英語の語末の‐er,‐or,‐arなどに当たるものは,原則としてア列の長音とし長音符号「ー」を用いて書き表す。ただし,慣用に応じて「ー」を省くことができる。     〔例〕 エレベーター ギター コンピューター マフラー エレベータ コンピュータ スリッパ

ここでの問題は、慣用に応じてルールは適用しなくてもいいという点と、このルールが絶対的なものでは全くなく、あくまで「よりどころ」に過ぎないという点だ。

政府は,本日,内閣告示第2号をもって、『外来語の表記』を告示した。 今後,各行政機関においては,これを現代の国語を書き表すための「外来語の表記」のよりどころとするものとする。

というわけなので、結局は文字を使って記述した日本語を公開したりする場合には各グループ内での共通のルールを(上のよりどころに反さない範囲で)創りだすほかないのだ。たいていの場合、とくに意識しなくても母国語話者であれば気にせずにある程度標準的な日本語を書くことはできるだろうが、公式な文や広範に出版される翻訳文や法律関係の文などは厳格なルールを敷くことが必要になる。

私が個人的に支持しており、信頼性もあると感じる表記・翻訳のルールとしては、Microsoftが公開しているスタイルガイドだ。世界最大規模のコンピュータ企業ならではの良質なリソースであり、たくさんの例が挙げられているほか、およそ現代の日本語表記で問題になるであろう点をだいたい先回りして書いてある。

たぶん大きな多国籍企業では社内ルールとしてこういったガイドが存在するのだろうが、インターネットでこのように公開している企業は少ない。公開するメリットがないのはわかるのだけど、私はMicrosoftが好きなのはこういったところだ。