未踏スーパークリエーターになった

修了式にて。左から4人目の茶髪が私です。Photo by 首藤先生

独立行政法人情報処理推進機構、通称IPAという機関があります。そのIPAが主催している未踏事業というものに参加していました。恐ろしくきつかったのですけど、5月に修了式を迎えてとりあえずのところ私の一年間の挑戦が終わりました。すでに次の代の未踏事業は始まっており、優秀な学生エンジニアたちが切磋琢磨していることと思います。

そんな折、未踏事務局からメールが届きました。内容は私がスーパークリエイターに認定されたというものです。 「マジかよ」と声に出てしまった。てっきり青木くん尾崎くんのチームだけだろうと思っていたのですこし意外でした。 口外禁止と明記されていたのでそのときは喜びを誰かと分かち合うこともできなかったのが残念だけど、本当にうれしかったです。 自分がこういう賞というか、こういうなにがしかをもらうことはこれまであまりなかったし、 スパクリみたいな称号ももってなかったので生きていると良いこともあるんだなぁとぼんやり思いました。

私にとって未踏というのは、遙か高い雲の上の存在でした。過去のクリエイターたちのそうそうたる顔ぶれを見たら誰でもそんな風に思うはず。超高学歴で、有名なIT企業でインターンして、国の研究所で研究しているとか、起業しているとか…、そんな飛び抜けて優秀な学生が集まっていることも知っていました。やっぱりそんな中に飛び込む気苦労は並大抵のものではなかったです。

総括

採択と同時に9ヶ月間毎日朝9時から24時まで、自宅でコンピュータとひたすら向かい合う毎日を過ごしました。本当に本当に孤独でした。完成させないと最終発表で恥ずかしい思いをすることになるというだけでなく、今後一生未踏の記録として残り続けます。ビジネスとしての成功はなくても、少なくとも完成させないといけないというプレッシャーから解放される日はありませんでした。大学時代の友人は皆それぞれの進路にすすみました。私は大学院を休学して、会社もやめて、どこにも所属していない状態でした。未踏に採択されたとはいえ、どうみても無職です。ただひとりですべてを抱え込み、中間発表や最終発表で叩かれないためにがむしゃらに打ち込みました。

そんなわけで私に強烈な生存者バイアスが掛かっていることは百も承知ですが、それでも未踏をやってよかったなと思います。同期のクリエイターたちは本当に皆優秀で、しゃべりが上手いし頭の回転は早いし知識の量はとにかく膨大です。そんな人々と友達になれたことは私の一生の宝です。

未踏に応募できる年齢には制限があり、採択時に24歳以下であることが必要です。私はちょうど24歳で、未踏採択のチャンスは人生最初で最後でした。どうしても欲しかった未踏クリエイターの称号を手に入れる唯一の機会を無為にしないですんだことは、幸運だったかもしれません。

相談に乗ってもらったり、食事をごちそうになったり、たくさんの人たちのお世話になりました。 本当にありがとうございました。

未踏に採択されてよかったこと

自分の技術力が上がる
本当に上がりました。基本的には全部一人でやらなきゃいけないし、周りに助けてくれる人もいない。自ずと自分で限界まで努力することになりました。未踏の成果報告会や誰かのコメントをみてみると、進捗が見られなかったりすると発表後の質疑応答でボコボコにされるということがわかります。もともと自分に自信のない私は、それが怖くて日々を憂鬱な気持ちで過ごしていました。ほかの未踏採択者の前、20人くらいいるでしょうか、また未踏のOBやIPAのスタッフも集まる発表の場で緊張して発表を終え、みんなの前でコメントされるわけです。「こんなの○○でできるじゃん」「前回からなんにも進んでないよね」「技術的に幼稚」「どこが未踏なの」などと同世代の若い人材の前で言われることは、つらいことこの上ありません。

それから逃れるために努力を惜しみませんでした。私は大学受験と未踏だけは、これまでの人生の中で死にものぐるいだったと思えます。周りは超優秀な学生ばかりの未踏プロジェクトで、凡人なりに9ヶ月間を無駄にしないよう、振り落とされないよう必死でした。孤独に耐え未踏を修了するまで一日一日作業にいそしんでいました。

事務処理のスキルが上がる
未踏期間中はめんどくさいこともいろいろあります。なかでも邪魔なのは作業日報の作成じゃないでしょうか。これはその日やった作業やその時間を表計算ソフトを使って規定の形式で記録するというものです。記述したファイルはIPAに電子メールで送付しますが、これの期限が毎週月曜日の朝9:00であることもあり、うっかり忘れてしまうこともありました。忘れているとIPAの担当者がメールで催促してくれるので、それで思い出して送信することが何度かありました。面倒な作業なのでみんな上手く手を抜けるように実際の生活のリズムをパターン化したりしていたみたいです。

多くのクリエイターにとって初めてとなる確定申告も初体験でした。雑所得にするのか、事業所得とするのか。節税のために何ができるのか。それらをOBや同期のクリエイター同士で情報交換して知見をためていくのは、なかなか楽しい体験です。

精神的に大人になる
強烈な孤独で精神的に不安定になっていた時期がありました。そんなときに「税金を使ってすごいものを開発しているクリエイター」みたいなジョーク混じりの紹介をされたことがあります。こういう言葉を投げつけられることは知っておきましょう。たぶん緊張をほぐしてあげてるとか場を和ませるとかそういう含意があるのかもしれません。こういうことを平気で言う人は公務員にも同じこと言ったりするんでしょうね。思い出しても苦々しい気分になります。いまでは大嫌いな企業の一つになりました。

修了式

ついに全部終わったんだなという感慨が深いです。

いただいた盾

宴会部長なので修了式のあとにみんなが集まる場所と飲食物を用意しないとならない。 今回はAirbnbで浅草の家を借りた。修了式会場のある大手町駅からは乗り換えが必要だけど、みんなで飲み食いできてある程度広くて騒いでも怒られない場所としては最良の選択だったんじゃないかな。 修了式は日本全国、さらに海外からの参加もあるので宿泊場所も同時に確保できるこの計画はだいぶ財布に優しかった。 会計が恐ろしく煩雑になるので、優秀な未踏クリエイターに計算してもらえてだいぶ助かった…

以下は未踏期間中にあったいくつかのイベントの前後にメモとして残しておいた短い日記をまとめたものです。とくに読む意味はありませんが、自分の苦悩の記録として残しておきます。未踏期間中は一切公開していなかった自分用のメモなので読みづらいかもしれません。