ナウルにいってきた その2

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おじさんから借りた自転車にのり、島をぐるりと一周する環状道路を走ることにする。しかしひどい暑さだ。この国は年間を通して30度を超える夏日が大半であることはともかく、とにかく異常に湿度が高い。ちょっとした距離を走るだけで自転車を止めてしまいたくなる。平坦な島ではあるが、自転車に乗っているときは徒歩よりもかなり傾斜に対してセンシティブになるし、それゆえわずかな坂がどうしようもなくつらい。汗がとまらない。適時水分補給をしないと熱中症になりそうだった。この道路を走っている人はすべて例外なく車か原付だ。自転車に乗っている人などだれもいない。完全に間違った選択だった。自転車ではなく原付を借りるべきだった。東京都の港区くらいの大きさだから大丈夫などと高をくくっていた30分前の自分を殴ってやりたい。おろかオブおろか。

とはいえ今更戻るのも嫌なのでこのまま進むことにする。しばらく自転車をこいでいると道ばたに小さな商店をみつけた。絶海の孤島でなにを売っているのだろうと思い店の中に入る。

店内を見てすぐにわかるが、事前に聞いていたようにかなり缶詰の比率が高い。大半の食料を輸入している都合上缶詰がメインになるのは仕方ないが、やはり少々不健康そうだ。ナウル国民の半分は糖尿病患者だというのも納得の品揃えである。飲み物はしっかり冷蔵庫のなかで冷やされており、とくに高値がついているわけでもなかった。ミネラルウォーターをとりだして店員に紙幣をわたす。この国でクレジットカードはほとんど使えず、法定通貨として定められているオーストラリアドルを現金のまま使う。オーストラリア本国では現金をほとんど使わなくなって久しいが、ナウルでは電子決済への移行にメリットはさしてないのだろう。ナウルにもATMはあるので安心してほしい。レジカウンターに座る店員はスマホで動画を見ていた。ナウルでもちゃんとデータ通信ができているようだ。

太陽に身を焦がしながら自転車をこいでいるとビーチに出た。さすが赤道直下の南の島だ。ナウルの海は美しい。真っ白な砂浜に青く澄んだ海。経済が崩壊していようが、国民がみな肥満だろうが、ナウルの海はなにも気にしていないようだ。しかしこのビーチにもだれもいない。

海沿いには魚市場らしき建物がある。建物自体は新しいようで(2014年完成らしい)あるが、ほとんど掃除もされていない様子から見てもすでに数年単位で放置されていると思われる。近くの港から魚を輸送してここでナウル国民たちに販売する目的で建てられたのはわかるが、そもそもこの国では漁業で生計を立てている人がほとんどいないという。この魚市場らしき建物もこのまま放置され朽ちていくのだろう。

さっきのフィッシュマーケットの建物はきれいだったが、ナウルにはもっとティピカルな廃墟も多い。30年とか40年前、つまりこの国の栄光の時代、リン鉱石の輸出で莫大な富を得ていた時分の残り香が至るところに残っている。落書きはないが、常に海風に晒され、モンスーンのシーズンには強い雨に打ち付けられるこの島の環境でコンクリートはかなり痛んでいる。この建物に近寄ってみたところ、普通に上階へつづく階段が残っていてそのまま上まで登れそうではあった。崩落したらどうしようと思ってしまったためこわいしやめておいたが、ちょっと中を覗いてみてもよかったかもしれない。

さらに自転車をすすめると、この街で最大規模のショッピングセンターが現れる。バーやカフェやケータイショップが集まっており、これまであまり見かけなかったナウル人もここにはそれなりにいる。

建物のなかにあるこの島で一番でかいスーパーに入ってみた。冷房もきいた近代的なスーパーだが、やはり品物としては缶詰が主体だ。海上輸送に頼るほかない、小さな離島の食糧自給について思いをはせる。このスーパーにはナウルに訪れたらぜひ行ってみるべきだろう。世にも珍しいナウル土産がいろいろある。マグカップやシャツ、マグネットなどの定番商品はそれなりにいろいろそろっていた。この島でつくっているのかはよくわからない。

スーパーで冷たい飲み物を買い、店の前のテラス席で飲む。目の前にはほかの国からこの国までの距離を示すオブジェがある。日本からはおよそ5000km。台湾より日本のほうが近い国のようだ。しかしフィリピンよりも近いということがあるだろうか。このJapanの表記はもしかしたら本土ではなく小笠原諸島や沖ノ鳥島からの距離を表しているのかもしれない。

ナウルの海辺には放棄された輸送施設とおもわしき巨大な人工物がたくさん横たわっている。リン鉱石を船に積載させるための施設だったのだろう。ナウルの海に夕暮れの陰を落としているそれらの多くはすでに崩壊しており、また海水を存分にあびてこれ以上無くさびついている。不可逆な変化がそこにはあり、もうなにがあっても稼働することはない。

日は大分おちてきた。街頭もなく太陽が沈むと島全体がかなり暗くなる。相変わらずかなり蒸し暑いが、日差しがないだけで快適に感じる。ここまで暗くなると地面が見えないし観光もできない。朝見たきりの宿泊場所にもどり、シャワーを浴びて今日一日の汗を流した。

夕食に出かけることにする。宿の主人に聞いてみると、泊まっている部屋からは徒歩15分くらいだろうか、シビックセンターと呼ばれる施設のあるあたりに中国系住民がひらくレストランがあるらしい。すでに外は真っ暗だが、犯罪なんて無縁な島、ふらふらと蒸し暑い夜の道をあるいていく。途中で島の兄ちゃんが声をかけてくれ、原付の後ろに乗せてレストランまで連れて行ってくれた。ナウルの人はとても優しい。旅人に優しい国は何度でも来たくなるし、同じ理由でインドにはもう行きたくない。

到着したレストランにほかのお客さんは見当たらない。適当な席にすわり、壁のメニュー表を眺めてみる。値段は書いていないが(テープが上から貼られている)、まぁ雰囲気からして高級店ではまったくなさそうだ。亭主とおぼしきアジア人男性が一人、ウェイターとしてバングラデシュ人の男性が一人スマホをいじりながら座っていた。

白身魚とミックスベジタブル、それに日持ちのするタマネギをカレー粉でオイルで炒めたものだと思う。白いご飯の上にそのまま載せただけのシンプルな料理が目の前に運ばれてきた。たしかに脂質糖質の多い食事だ。これこそがナウル料理なのだろう。テーブルの塩こしょうと醤油をかけて食べる。味はなかなかおいしかった。お値段は600円くらい。

会計をしてレストランを出る。暗いナウルの夜の道を歩き部屋に戻った。インターネットが使えないこのナウル旅行で私が夜にできることは特にない。明日も朝から観光できるように早めに寝床につくことにする。ベッドルームのすみっこにはヤモリがはりついていた。

翌朝、重い荷物は部屋においておきサイフとパスポートにスマホだけもって朝から観光にでかける。昨晩のレストランがある地区を起点に道なりに北上していくと、ナウルで最も美しい場所とも言われるラグーンがあるらしい。歩いて出かけてみる。片道20分から30分ほどかかるが、ナウルにほかに見るものがあるわけでもないためこの島を訪れるわずかな旅行客は大抵見にくることになる。

道路端には路地のようなものがあり、寄り道してみると戦時中つかわれていたという廃墟がいくつも残っているのを目にする。それらは特に手入れもされず、自然なままの林の中に濃密な木々の匂いをまといひっそりとたたずんでいる。戦争関連の廃墟というのはすこし怖い感じもするが、よく晴れた真っ昼間なので案外そうでもない。日本だとこういう史跡は立ち入り禁止になっていたり柵で囲われていたりするが、ナウルではだれでも触れるし中にだって入れる。それはなかなかうれしいところだ。

もとの道にもどり、再度アスファルトを進んでいくとラグーンに出た。ここがナウルいち美しい場所だという。たしかに多くの木々が刈られてしまったこの島ではめずらしく青々としている。しかし水は濁っており、世間一般に南の島のラグーンというワードから想像できる光景とは合致しない。遠巻きに見るくらいが一番いいように思う。特にナウル人の憩いの場というわけでもないようで、ラグーンを一周する道路にそって歩いてみたが誰にも会わなかったし車も通っていなかった。個人的にはこの島の海岸でみかけた廃墟や白砂のビーチに青い海のほうが美しいと思う。

ラグーンをあとにし、昨日晩ご飯を食べたお店で別のメニューをためしてみた。やはりよく似た料理が運ばれてくる。肉と魚を炒めてごはんの上にのせたもの。ややあぶらっこいがかわらずおいしかった。これがこの島での最後の食事になる。ホームステイ先に荷物を取りにもどり、オーナーのおじさんに別れの挨拶をする。一緒に写真を撮ろうといわれた。これまで泊まった人みんなとツーショットをとりためているのだという。もちろん断る理由なんてなく、私のスマホもつかってもらい一枚ずつ思い出のバイナリデータがうまれた。

空港に到着し、チェックインを済ませてもとくにすることはない。空港に併設されたカフェでスプライトを飲みながら出国書類を書く。入国も手間なら出国もめんどくさい。ナウルから1万オーストラリアドル以上の価値のあるものを持ち出す場合申告が必要ということだが、はたしてそれは可能なのだろうか。出国審査も税関もとくに厳格にチェックしている感じではなかった。書類とパスポートを審査官に渡しスタンプをもらう。あっというまの出国だった。

空港の待合室にはオーストラリアからの衛星放送がながれている。ちょうど天皇陛下の代替わり式典を中継していた。間違いなく私は平成最後の日と令和最初の日をナウルで迎えた唯一の日本人だっただろう。

そして免税店もあるにはある。が、みるからに機能していない。いままで行った様々な空港のなかでも最も貧相といえそうだ。

壁にはfacebookでながれてきそうなイイハナシっぽい文句が大量に貼られている。こういうのが好きな人がスタッフにいるのだろうが、正直にいってこれはかなり気持ちわるい。

搭乗時刻になり、行きとおなじようにナウル航空の飛行機に乗り込む。行きとおなじように機内は空いている。行きとちがう場所にこれから向かう。次の目的地はフィジーだ。

離陸した飛行機の窓からナウル島が見える。あっというまに島の全体像が目に入る。自転車がつらいとかなんとか言ってはいたが、こうしてみるとやはり本当に小さな島なのだ。渡航まで手間もお金もかかる国だったし、改めてまた行きたいかと言われるとはっきり言ってこの旅行記をここまで読んだ多くの人にとってかなりクエスチョナブルだと思う。しかし私にとってこの旅行は間違いなく素晴らしかった。短いが濃い滞在だった。私はこの愛すべき小さな島へ、いつかまた行きたい。