イースター島にいってきた

アタカマ砂漠にいってきたからのつづき

チリ北部の都市カラマのホテルで目を覚ます。カラマ市はひいき目に見ても大都市とは言いがたい規模の町で、ここでカフェや朝食営業をしているレストランを見つけるのは骨が折れるだろうと思い素直にホテルの朝食を食べた。朝食はとてもシンプルで、トーストとチーズとハムくらいだった。しかしそれで十分だ。正直に言えばこういうとき生野菜を摂りたいなとはおもう。でもひたすら乾燥したこの街で農業を行うのは難しそうである。

荷物を整理し、ホテルのWifiをつかってUberを呼ぶ。サンティアゴの空港で買ったSIMカードが結局一度もネットにつながらない不良品だったので、かろうじてWi-Fiの電波がつかめるホテルの玄関先からじっと動かずタクシーの到着を待った。

世界一乾燥した地域らしい雲一つ無い青空の下を走る。空港までは10kmほどの道のりで、高速道路を走れば15分かそこらでついてしまう。ホテルからカラマ空港までの運賃は1000円にもみたない。

カラマ空港からサンティアゴ国際空港までのフライトにのり、適切な湿度のある街にもどってくることができた。使えなかったSIMカードは空港内の購入したお店で事情を説明したところ現金で購入金額を返された。クレジットカードで購入したためレートによっては損しそうだが、とりあえずSIMカード代をドブに捨てずに済んだ。

イースター島への入島にはナウルほどじゃないにせよ手間がかかり、ほとんど別の国に入るかのような手続きを経る必要がある。チリ観光局の認定するホテルの予約し、往復の航空券を入島申告を事前にオンラインで記入し、サンティアゴの空港カウンターでレシートのような入島許可証を受け取る。手続きも検査もチリの国内線とは思えない手順の多さで、国際線と同じくらいの十分な余裕がないと乗り継ぎに失敗してしまうので気をつけたい。

今日は元旦であるにもかかわらず、驚くほどの人数がイースター島行きのフライトを待っていた。みたところその多くは外国人観光客だった。アメリカ人が多いように見えるが、日本人もそれなりに見かける。サンティアゴの市街地では日本語を聞く機会はなかったが、みなどこにいたのだろう。見覚えのある旅行ガイドの表紙をみて、私も持ってくればよかったと少し後悔した。イースター島に関する事前の情報をなにも調べないまま出発間近になってしまっていた。

「驚くほどの人数」がちゃんと座れるだけの巨大な飛行機に搭乗する。3−3−3の横9列だ。国内の離島路線とは思えない高規格飛行機が就航している。この路線はLATAM航空一社だけしか飛んでないし、観光客が毎日山ほど人が乗るドル箱路線なのだろう。飛行時間は驚異の5時間半。国際線の距離である。ちなみに機内食も出る。

長いフライトが終わり、すでに時刻は15時を過ぎるころ、大きな飛行機は緑あふれる絶海の孤島、イースター島に到着した。フライト時刻を考えるとつい国際線みたいな雰囲気を感じてしまうが、あくまでチリの国内線、入国審査などはない。しかしイースター島に点在するモアイを見るためのチケットを買う人の行列ができるのでそれに並ぶ場合はなかなか空港から出られない。このチケットは後に町中でも購入できるため混雑する空港の販売所で買わなくても問題ない。

空港から徒歩15分ほどの民宿に泊まる。スペイン語しか話せない年配の女性と、英語も話せる若い女性が受付に立っている。予約表を見せ、泊まる部屋の鍵を受け取る。事前に知らなかったが、この宿で直接原付を借りることができるらしい。町のレンタルバイクショップへ行こうと思っていたのでここで借りられれば移動が楽だ。価格もショップと変わらないので借りることにする。渡航前に取得しておいた国際免許証が役に立つときが来た。原付は国によって扱いが大きくことなり、東南アジアなんかでは自転車とおなじく免許なしでも乗れることが多い。チリではかなり厳格にライセンスの所持をチェックされるし控えも取られる。スペイン語の記載もあるので問題なく借りることができた。日本国内のある離島でレンタルしたときは免許のチェックをしないまま貸し出してくれて、さらに乗り終わったら店の前に置いといてくれという自由な形態のショップをつかったこともある。同じ離島でも文化の差が現れているようだ。

原付という最高の翼を手に入れたらこっちのものである。イースター島のぬるく湿った風を肌に感じながら島のマップに記された道路にそって走り回る。

しばらく走るとビーチのような場所に出る。遠くのほうに立ち並ぶ黒い物が見える。あれは…

いた。モアイだ。モアイがいた。生で見る初めてのモアイだ。そのどこか間の抜けた表情と、これまでの人生で幾度となく様々なメディアで見てきたモアイが現実に目の前に現れているこの状況になんだか笑ってしまう。帽子をかぶっているものと、かぶっていない物、胴体だけのもの、胴体の下部だけがのこっているものがみなきれいなビーチを背に並んでいる。

頭だけのミニモアイもいる。かわいい。せっかく地球の裏側まで来たんだから触ってみたいが、そんなことはしない。注意を守らずベタベタ触ってたら、今度は柵ができてしまうかもしれない。

絶海の孤島らしい景色だ。白い砂浜は絶え間なく波に洗われており、波打ち際は砂が舞いベージュに濁っている。すばらしい景色だ。

原付を適当に走らせていると、前向きに倒れたモアイも見かける。故意に倒されたのか、建造途中なのか、地震でもあったのか、なにもわからない。なんのために作られたのかすらわかっていない像が島のいたるところにある。それはこの島でしか見られない異常な光景だ。

各所のモアイを訪ねて走り回り日が暮れる。メジャーなモアイは日が暮れる前に入り口のカウンターが閉まり入場できなくなる。そうなるともうこの島の見所もないのでおとなしく宿に帰ろう。晴れることを祈って。

翌朝、まだ暗いうちに宿を出る。雲はあるが天気はよい。朝焼けを見るのにぴったりの時刻だ。モアイの背後から太陽が昇る景色を見ることができるのはイースター島最東部にある「アフ・トンガリキ」というスポットで、宿からこの地点まではかなり遠い。原付を飛ばすうちに空は明るくなりはじめ、鮮やかな朝焼けの色合いをおびていく。

車で30分ほどかかる距離で、普段クルマもバイクも運転しない自分にとってはとても厳しい。まだみんな寝ているのか、あるいはもう到着しているのか、その道中にはほとんど他の車両を見かけなかった。

飛ばせるだけ飛ばして到着したアフ・トンガリキには既に数十人の観光客が集まっていた。朝焼けにも間に合った。ちょうど太陽がモアイの後ろから昇っているさなかだ。イースター島で最も美しい光景かもしれない。これが見たかった。あたりがすっかり明るくなるまでの時間はほんのわずかで、逆光で黒く染まるモアイもその間しか見ることができない。来てよかった。

日が昇りきり、観光客は少しずつ減っていく。わたしも原付に乗って同じ道を通って帰る。朝焼けを見るために早起きしてなんらかの努力をするというのは、今回のほかは富士山に登ってご来光を拝んだときだけかもしれない。

お正月をイースター島ですごした。チリ本土に戻ることにする。大量のモアイを見ることができて満足した。この島に到着して間もないころ、泊まった宿のオーナーらしきおじさんに「モアイはどこにいるの」と聞いたら「モアイ is エブリウェア!」と笑われた。まさしくその通りで、この島にはきれいに並べられた観光客用のモアイはもちろん、そのへんの草むらにもモアイが寝ていたりモアイの一部が転がっていたりする。とてもじゃないが900体あるとも言われる全てのモアイを見ることなど短期滞在の観光客には不可能だ。でもそれはまたこの島に来たときの楽しみとしてとっておこう。

つづく