クウェートにいってきた その1

クウェートという国へ遊びに行ったことがあるという人は、たぶん相当少ない。日本人旅行者が少ないというだけではなく、国際的に言っても観光先としての同国の人気は非常に薄い。なんでもそろう英語版Wikipediaにさえ、「Tourism in Iraq」や「Tourism in Bahrain」はあれど、「Tourism in Kuwait」という記事は今日現在、存在しないのだ。国連世界観光機関(UNWTO)によれば、クウェートに訪れる観光客の数は中東地域で最下位、統計的にはシリアやパレスチナよりも低い数字なのである。

夏場の最高気温は50度を超えるし平均気温も40度前後、冬場は冬場で日中は30度、夜間は5度まで下がるというその強烈な砂漠気候、加えて海に面していて年間を通して高い湿度の国というのも気になる。そんな極端な気候の国もなかなかない。これといった観光名所もなく、中東では唯一、アジア全域でも非常に珍しい「世界遺産が一件もない国」でもある。そんな場所なのでこれまで行く機会もなかったが、誰も遊びに行かない謎の国というのも興味がそそられる。クウェートに行ってみることにした。

クウェート航空の機内食

クウェートには日本からの直行便は就航していない。東南アジアならバンコクとマニラから行くことができるほか、スリランカの首都コロンボから入国することも可能だ。クウェートが観光客に人気がないというのは事実であっても、豊富なオイルマネーで潤うレンティア国家であるため途上国からの出稼ぎ労働者は非常に多く、クウェートの総人口のうち外国人は実に7割を占める。そのため南アジアを中心としたフライトは比較的多く設定されており、加えて旧イギリス領だったことからかヨーロッパ諸都市へのフライトもそれなりに就航しているので行こうと思えば簡単に渡航できる。しかしクウェートに隣接する湾岸協力理事会参加国を除いてすべての外国籍旅行者はビザの取得が必須だ。日本人も例外ではない。

とはいえ日本人を含むいくつかの国の人は30日間有効のアライバルビザをクウェート入国時に受けとることができる。つるつるした分厚い申請用紙はビザカウンターでもらえるが、ちかくにボールペンはなかったので自分でもっていこう。ビザ代金の支払いにはクレジットカードが使えるほかカウンターの近くにATMもある。ちなみに申請料金は3クウェートディナール。およそ1400円ほどなのでサウジアラビアやオマーンに比べるとまだ安価だ。

ビザカウンターで観光ビザを発給してもらっている人はわたししかいなかった。本当に誰も来ていないようである。渡されるビザは巨大な紙で発給され、多くの国で採用されているステッカータイプのビザと異なり非常にかさばる。この紙は国内のホテルに泊まるときにコピーを取られるし、出国時に回収される決まりなので最終日までなくさず持っていよう。ビザ発給のタイミングで入国審査も行われるため、ビザの紙があればイミグレはスキップできる。事前にビザを取得していくよりも時間効率がよい。

最新のターミナル4

この国に旅客機が降り立つ空港は一つしかなく、したがって国内線は存在しない(ナウルと同様だ)ということはもちろん、国外からやってくる旅客も全員がこの空港に降り立つことになる。ターミナルは工事中のものも含めて5つあり、もっとも古いターミナル1はかつて丹下健三によってデザインされた。新宿のコクーンタワーや東京都庁を設計した偉大な建築家だ。

第四ターミナルのバス停

バス停としての明確なサインはないが、ターミナル4の出口で待っていれば時折バスがやってくる。バス停というより単なる空港前の道路という趣で、あたりを見回しても時刻表もないしここをどのバスが通るのかもよくわからない。とりあえずきれいなバスがやってきたらドライバーに「City center?」と訪ねる。街の中心地までいくことができればあとはなんとかなるだろう。

30分ほど待ち、4−5台のバスを見送ったのちに中心地のバスターミナル行きバスに乗り込むことができた。支払いは現金で1/4ディナール(およそ120円)。ATMから引き出したばかりの高額紙幣では支払えないだろうと思い事前に空港の売店で飲み物を買っておいて正解だった。一緒のバスに乗ろうとしたおじさんは高額紙幣を出そうとして断られていた。

この国の通貨「クウェートディナール」は世界でもっとも1単位の価値が高い通貨として知られる。1ディナールは480円ほどもするためそのままだと使いづらい。ATMから出てくる20ディナール札も1万円くらいの価値があり、日本の一万円札も価値が高くて不便だが、20ディナール札もまた日常の支払いで使おうとするとかなり嫌がられる。そのため日常の決済には1/2ディナール札や1/4ディナール札が多用されていて、バスでもこういった細かい金額の紙幣でないと受け取ってもらえない。分数をつかった値の貨幣はやや珍しいが中東地域に限ってはよく見られるもので、バーレーンやオマーンのお金も分数で表されていた。

ミルカブ バスターミナル

およそ1時間で終点のバスターミナルに到着する。この街のバスの路線は非常に複雑なので、できればこのバスターミナルの近くでホテルを取って拠点にすると観光もしやすい。外資系の高級ホテルもバスターミナルの周辺に林立している。

真ん中はサウジアラビア国旗

わたしがクウェートに訪れたとき、国内の国旗はすべて半旗になっていた。これは同国の首長が亡くなったことを悼んでいるからで、クウェート全土で40日間の喪に服すという政府の発表を受けたものだ。ここで雑学をひけらかしておくと、サウジアラビアの国旗は半旗になることはない。サウジアラビアの国家統治基本法において国旗は半旗にはしない旨定められているからだ。そのためホテルの前に掲げられた国旗は、サウジアラビアのものだけが高々と掲げられていた。

つづく